盆玉

何処の馬の骨とも分からぬ相手の話を聞くは徒労にて門前払いが関の山。が、センセイの紹介とあらば無碍には出来ぬ、請われて口利きというか市への売込みの片棒を担ぐことになった。無論、謝礼は求めぬ、というかそもそもに向こうにその気なく。依頼主は前職時代の知人。よもや私の顔に泥を塗るまいが、内容位は知らねば...と聞けば今流行りの人工知能を活用した業務効率化にて働き方改革に資するとか。
ふむふむ、「まずは私が聞こうか」-「いや、貴殿は結構」とにべもなく。おい、そもそもに業務効率化なんてのは既存の仕事を奪う訳で敵方の抵抗は必死。ならばそれを監督するセンセイがその気にならずして役人を説得できるかと思わんでもないのだが、悲しいかなそこは期待されておらぬ様子。まぁそもそもに流行に無頓着な上にカタカナの羅列では話通じず、余計な節介は焼かずに限る...でもないか。
さて、母の達筆が過ぎて「盆」が「金」に見えてしまう煩悩を悔いつつ、昨今は正月の年玉ならぬ盆玉などという油断ならぬ慣習が根付きつつあるとかで、盆玉を孫の懐に郷里への帰省を終えた。積善の家に余慶あり、今あるは御先祖様の功徳の賜物。されど、今や墓参りなど口実に過ぎず、狙いは別にあったりもして...。
ということで田舎では同級会が企画されることも少なくない。盆に帰るは亭主側の実家であって嫁いだオンナの都合を無視した暴挙だなどと攻め立てられて、中学時代のソレは秋の連休に「した」というか正確には「させられた」のだけれども何も同級会は中学時代に限った話ではなく。高校の卒業以来、二十数年ぶりの再会の際にこの夏は地元で同級生を囲んでと勢いそのままに開催を指示しておいたはずなのだけれども...おい、これっぽっちか。
たとえ如何なる境遇にあろうとも机を並べて青春を謳歌した当時の思い出は変わらず、出席者の少なさを嘆けばそれは当人の勝手な解釈であって慢心以外の何物でもないと恐妻。私の地元は副都心のようなもので市内ではそれなりに栄えてはいるのだけれども高校のソレとなると市の中心地まで移動せねばならず、運賃こそ首都圏に変わらずも本数は毎時一本にて。言い出しっぺゆえ遅刻は失礼、こちらの都合を考慮せぬ相手の機転の無さを嘆きつつも早め到着にのどしめしと入ったビストロのシャルドネが旨かった。
まぁおかげで本番はすっかり饒舌にて参加者には随分喜んでいただいたはずなのだけれども尽きぬ話題にもう一軒と。いや、折角の誘いながら今回の帰省は家族連れにて実家を不在にしては嫁姑の紛争が生じぬとも限らぬし、何よりも子が父の帰りを待っていると固辞すればオマエに限ってんな訳なかろうにだって。
小中の同級生のS谷が自らの苗字を冠した本格的なバーを開店したと聞いて機会を狙っていたのだけれども泥酔の悪童悪女が一緒では他の客に迷惑。いや、向こうが堂々と入って行っちゃったよ。私が水泳部の主将ならばヤツは剣道部の主将でね、当時から何かと近い仲だったのだけれどもその格好に凛とした姿勢と所作がバーテンダーとして板に着いていて。久々の再会に特別な泡酒を用意してくれたんだけど、泥酔客を後ろにカウンターで呑んだウィスキーが郷愁を誘った。
(平成30年8月15日/2447回)