蝋燭

提灯の蝋燭は御先祖様の命にて消さぬようそろりそろりと墓から自宅へ。揺れる炎にどこからともなく風が吹き...あ~あ、消えちゃった、幼少の懐かしき記憶。蝋燭を命に重ね合わせること少なくなく。棺に添えられし一本、徹夜とあらばうたた寝によろめいて倒しかねず、別な不幸が重なっては...。と用意されし擬似モノゆえそちらの心配なく甘えて熟睡してしまったのだけれども翌朝の起床早く、護り番を弟に委ねて朝ランに出かけた。
果報過ぎるは何かの兆候、大台突破に首位当選、それでいて公用車の付与といつまでもいいことばかりは続かぬ訳で。忍び寄る戦争の足音、ひとたび要請あらば生きて帰れる保証無く、子孫残すは自然の摂理、昭和十九年生まれは一人っ子が多いと聞いた。女手一つで育て上げた子に先立たれるも議長として全国戦没者追悼式に参列する孫の姿を見届けるかの如く祖母が逝った。
親兄弟に不幸があれども平然と祝辞述べねばならぬ世界。慶事弔事は自己都合に過ぎず、他人様に会うが仕事にてそんなに悲嘆に暮れていては礼を欠くというか故人も浮かばれぬ。家族葬と申してみても事後の弔問に手ぶらで帰す訳にもいかず用意される返礼品。ならば隠さずと知らせる、いや、知らせずとも隠さず。やらばそこに人が集まることの意義を説くはおらがセンセイ。薄れゆく絆、昨今なんぞは遺族ならぬ自治体が条例にて香典等の自粛求める事例あるやに聞いた。
住職が弟と同い年ならばその姉君は私の同級生にて里が知れて困るもんではないのだけれども遠く離れた片田舎の一事、ましてや祖母とあらば尚更にて弔意の類は固く辞退と残したつもりが、姿現したるは後援会長。花びら散れども花散らず、形滅びても人は死なぬと住職の説法に耳を立てつつ、悪童時代に散々世話になった近所の方々に参列いただいて喪主の大役を終えた。
他人様に迷惑をかけるなと復帰急かす母、いや、それ以上に帰省の事実が知れ渡らばよからぬ誘いが無いとも限らず、早め復帰を意図するも週内は休むと告げた手前、帰るに帰れず。気晴らしに酒でも...そうだナ。二十数年ぶりの再会に尽きぬ話。受けた恩は心に刻み、与えた恩は水に流すが人の道。見返り求めた記憶はないのだけれども良寛牛乳一本に夏休みの宿題を写して留年を免れたとはM君の談。高校は首席の卒業もついぞ人前で勉強している姿を見たことが無かったとI君。
そりゃ努力っちゅうもんは人の見ておらぬ時にするものと酔った勢いに言い返さばかねてよりの疑問、不得手に見えずと運動部に属さなかった理由問われて、部活で疲れては勉学が疎かになりかねぬと母に咎められたからとはこの齢ゆえ言える話。そんな家庭、教育熱心な母親に放任主義の父親にて祖母と友人に恵まれねば今頃はとんでもない異端児であること必定。こう見えて初孫な上に祖母っ子ゆえ。
(令和元年8月28日/2519回)