父親

「男には帰れない夜がある」。川崎通の貴殿ならばきっと御存知のあの粋な看板に帰宅を躊躇すること一度ならず。子供の友達が遊びに来るからなるべく遅く帰宅せよとの指示が奥方からあったとか。そんな不甲斐ない父親でいいのか、いや、それが世の模範となるべきセンセイ、しかも最大会派の団長とあらば見捨てておけぬ。急遽、夜の予定を変更して家庭事情の聴取となった。
帰れぬ夜があるならば外せぬ行先もある訳で。公務の合間、昼食時に立ち寄らば帰り支度の親子。子の為に弁当を作る、母の手料理を一緒に食べる、それこそが親子の絆を育むのではないか、との園への苦情が寄せられそうなもんだけど、あにはからんや省ける弁当の手間に保護者は喝采。午前のみに変更された幼稚園の運動会。世論を見誤っちゃいかんと園長。園長もそちら派だったはずなのに...。
肩身狭き身分にて秘書の台本通りに予定こなす日々。発表前に予備知識をとの隠れた意図か、前年の栄に浴された大隅良典氏の講演を拝聴する機会に恵まれた。自らの受賞は世間の耳目集むるがん治療とか医学分野への貢献を意図したものではなく、あくまでも純粋な知的好奇心の結果。幸いにして研究費に工面することなく、研究の仲間にも恵まれたとの謝辞に始まるも、こと近年は研究費獲得に求められる成果が異様に厳しいと。
スマホ普及に溢れる情報、正解見つけるに十分な環境整えど、利便性が向上するあまりそこに依存しすぎては思考衰えかねず、遮断せよとは言わぬまでも未来ある子供たちの為に社会や大人がそこを意識出来るかが大事と。問われる費用対効果も基礎研究など見えぬ成果。されど、それが公費とあらば度外視とも参らず、その殻破るは公費投入に報いんとする研究者の飽くなき執念と相互の信頼。
弘法も筆の誤り、それだけ多くの職員を抱えておれば中には...。万事抜かりなきが役所、軽微なミスとて許されるものではないらしく上席及び管理職の陳謝の来室絶えず。そのへんの損な役回りは「副」が演じて下さるから私などは痴漢等の悪質な事案及び常習犯以外は再発防止を求めて穏便に済ませるのだけれどもその手の報告は各センセイにも知らされる訳で手ぐすね引いて待ちわびる一部には格好の口実に。
そりゃ中には明らかに「クロ」と思しき事案あれども懐疑的な目で見れば白も黒に見えかねず。議会軽視も甚だしい、蔓延する隠蔽体質に綱紀粛正を図るべきなどと辛辣な表現が並ぶ追及とあらばさすがに不憫に見えなくもなく。そりゃ誰もが逆らえぬ正義、錦の御旗であってそれを振りかざされては相手も敵わぬ。そこに客観的な数値指標があるものでもなく。
良心の呵責に謙譲の美徳から一寸の非を認めた上で謝罪すれば相手とて深追いはせぬもの。いや、それがどうして、昨今などは非を認めたが最後、更なる責任の追及に発展しかねず。互いに募る不信感に薄れゆく信頼関係、その溝をいかに埋めるか。そのへんは職員以上に日々の経験に勝るセンセイ方の度量が問われるところで。独善的な断罪では溝は埋まらぬ、というか余計に深まりはしまいかと心配するは老婆心か。
(令和元年10月10日/2528回)