生欲

そう機会あるもんでもなく関係者には子の誕生が如く一日。海上自衛隊の式典にて「進水を待つ冬晴れや波の音」と詠んだ。
俳句は視座が肝心だそうで。ゆえに吾輩は猫とその奇想天外な視座を有したかの文豪には独創的な句多く。その代表作「こころ」に「人間の胃袋ほど横着なものはない。粥ばかり食っていると、それ以上の堅いものは消化(こな)す力がいつの間にかなくなる」との一文を見つけた。
採決を含む年内の全日程を終えた。後半は一般質問。議長以外の「全て」の議員に認められし発言権。これほど広く認める市議会は全国でも稀であって、時に羨望の眼差しを以て賞賛されたりもするのだけれども人の胃袋に同じ、粥ばかり食べとるとそれがさも当然が如くにいつしか研鑽を怠り。内容乏しくとも口調穏やかならば子守唄位にはなりそうなもんなれど、しゃべらな損の勢いでまくし立てられては耳障り悪く余韻残るは疲労感。
そこに制限あらば折角の機会を有効に、との思慮働くはずもそんな親心とて敵方には権利侵害と映る訳で。火中の栗拾わずと黙々と自らの内職に専念しとると思しき御仁少なくなく。が、雛壇というか番台となるとこうはいかぬ。いかなる質問であろうとも聞き分けて瞬時に答弁者を指名せねばならんのだから気は抜けぬ。が、そこは何と申しても役職が役職だけに言わずとちゃんと手元には答弁者の順序と回数までが記された一枚が置かれていたりもしてその通りに指名しておれば内容など...いや、ちゃんと聞いとりますぞ。
「二句添へて箪笥にしまふ古日記」も今月の一句。「日記買ふ」が冬の季語にてそちらが兼題だったのだけれどもまぁ「日記」には違いなく。そちらを詠んだものは「まだ生くるつもりの三年日記買ふ」との先生の句を筆頭に旺盛な「生」欲に絡むもの少なくなく。執着心こそ御元気な秘訣か。ゆえに発言権への執着は分からんでもないのだけれどもそこに些かの気遣いでもあらば...。そのへん、若手の矢沢孝雄君なんぞは多少の時間を残して質問を終えたのだけれども要領よく的を得た質疑にて耳に残った。
ありがちな役所の煩雑な手続きの改善を求める内容にて、その発端は建設発生土の市への受入について実際の運搬以外にその許可・申請の類で都合三度も本庁窓口に出頭せねばならんとか。市の北部とあらば片道一時間、そりゃ典型的な御役所の都合の一例であって利用者目線で全庁的に改善すべしとの内容に市長自らが改善への強い意欲を示して質問を終えた。
最近は複雑な精神構造を有した被告少なくなく解釈に悩むのだけれども。長男を殺害した罪に問われた元事務次官に言い渡されし懲役六年の実刑判決。子を想う親の心を信じつつも、袋小路に追い詰められた当人の苦悶に実の息子を殺めた、というよりもそうせざるを得なかった心境いかばかりか。子を失いし悲しみとともに背負う十字架。判決後の本人の表情には情状酌量を願わずとも判決を甘んじて受ける悲壮な覚悟が窺い知れて。獄中、体調を崩されぬことを願っている。
(令和元年12月20日/2542回)