柿中

越前に隠遁の十兵衛を訪ねる盟友の藤孝、生まれたばかりの赤子を抱く藤孝に妻の煕子がつぶやく、「人見知りする子が泣かぬは不思議」と。確かにその一コマは覚えとるけどそれが何か...と言いかけてはたと気づく。明智に細川とくれば...。光秀モノである限りは後の姿は描かれずともその運命の糸をさりげなく織り込んだ演出が憎く。史実のみ見れば、叡山の焼き討ちに本能寺の変を企てし謀反人、逆臣の徒と教わりしも時代背景、舞台裏の秘話知らば評価一変。著者の誇張や恣意的な解釈があったとしてもそれを含めて後は読者がどう咀嚼するか。

名目上は郷土史なれど、そこに付されたコラムに知る当時の秘話。おぼろげな記憶に知ったかぶりの自慢話を披歴したものの、気になる事実。かつては一を聞いて十を教えて下さったOセンセイが居たのだけれども。第三十一代議長が自ら編纂された郷土史を調べるべく向かった先は柿中こと柿生中学校。いや、正確に申し上げれば校舎に併設された柿生郷土史料館。郷土を綴った蔵書が豊富な上に無償ボランティアが昔話を語ってくれる。気になる夏の研究課題は「村の名物センセイ」について。

代々が教育者の家柄などと聞くと世間的にはさも名家の誉れ高そうに映るも実際は遺産なくそこに活路を求めざるを得なかった、当時は兵役から逃れる為に、かくいう我が家も...。「ふむふむ、そうだったのか」と真に受けるは思慮浅く、謙遜、謙遜。そんな自由奔放な話が聴けるのも当館の魅力。珍客の登場も温かく迎えられて調べものついでに花が咲く地元談議。帰り際の校庭には夏空に白球を追う選手たち。村の歴史を後世に残さんとの気風が醸成された御当地にあってそれを受け継ぐ生徒とあらば礼儀正しく帽子を脱いで挨拶をしてくれた。

閑話休題。議長といえど発言権なく、口を挟めぬ議会運営委員会。予定なき挙手は市議会の暴れん坊将軍ことH団長。違反者が目に余るゆえ議長名での通達を求める、との発言にしばしの静寂。前段は分かった、が、「議長名」の通達か。それで通じるが大半なれど、確信犯とあらば通じぬ一般常識。通じぬどころか違反の根拠を示せ、などと逆上せぬとも限らず。議会宛の請願・陳情は常任委員会における審議に結論を得るが原則。役人側からすれば常任委員会における答弁こそが満額回答な訳で、たとえ本会議といえどもそれ以上の答弁は信義に反する。いや、刻一刻と状況が変化しとるのだから更なる答弁があって然るべき、拒むなど言語道断、というのが対する当事者側の言い分らしく。

時に敵の軍門に下ってか「特別」なソレが示されたりもするのだけれども隣はダマっちゃいない。規則を遵守しとるがバカを見る運営はおかしいではないかとの批判はまだしも、それが許されるならばオレ様にはアイツ以上の答弁を...なんて結局は譲歩したツケが回ってくる訳で。渦中の当人とて大舞台に鬼の首を獲ったかの如く有頂天面も見渡せば憮然とした面々に囲まれていたりも。そもそもに請願者が求めるは願意成就の結論にあって、その過程段階の答弁を手柄と誇ってみてもはたして損得どうか。そこに自ら信用失わずとも、と老婆心ながら。

(令和2年9月5日/2592回)