印鑑

対岸への干渉はせぬに限る、と知るもH団長宛に届いた依頼。雌雄決する関ヶ原にて、と。こちとら支援の手こそ惜しまぬも勝手が効かぬ不自由な身分にて夕刻の到着に翌日の昼に戻る日程ならば、と返事をすれば「使い物にならぬ」とにべもなく。

捨てる神あれば拾う神あり。兄貴分の議長殿から政令市の存続を揺るがしかねぬ由々しき事態にてその意義を訴えるべく供をせぬか、との誘い。が、そんな大物と御一緒すれば厚遇されどもどんな役回りを負わされるやしれず。雑務の労こそ厭わねど慣れぬ土地でのマイクなど絶対に...。下手な演説に個人の資質を嘲笑されるは一向に構わんのだけれども肩書を披歴されては本市の汚点になりかねず、一介のスタッフに徹して日帰り遠征を終えた。

双方の都合で語られる構想の是非。もはや終盤とあらば単純化されて。都への昇格に副首都を実現すると賛成派、かたや政令市を返上するは大阪の為ならずと反対派。「あちらさんの言い分とて分かるで、されど拙速すぎや。ここから少し行けばN市やけど生活保護などここに来ずと大阪市のK地区行けば面倒せぬと告げられる。市としてまずやらなあかんのはそこやねん」と通りがかりの老紳士。百聞は一見に如かず、御当地を訪ねてこそ知り得る繊細な空気。

広報「議会かわさき」の次号を飾る対談を終えた。相手は目下、首位独走中のフロンターレのあの選手。相手に粗相なきようと渡されし資料に見る選手の嗜好。が、それ以上に目を惹くはチームの命運を握る社長の取材記事。今季リーグ優勝への決意とともにプロスポーツ不毛の地と言われた本市にチームを浸透させた作戦を語っておられ。かつて数千人の観客も今や二万人。

ローマは一日にしてならず。そんな姿は誰かが見ているもので、今ほど脚光を浴びぬ中でも選手が市内の小学校を回る様子を用務員が教えてくれたことがあり。何よりもスタジアムに足を運んでもらう為にシーズンオフには選手自ら街の清掃活動や小児病棟、商店街の訪問を重ねてきたと。まさに目に見えぬ努力というか足で稼いだ勝利。

そこに生計を立てとる方もいるのだからそこまで目の敵にせんでも。攻め立てられるは印鑑のみにあらず。本市に港は要らぬ、港の前には「船来ぬ」との枕詞こそあれど、そこに投ずるは税金の無駄、「港」か「福祉」かの二択を迫るはイジメが過ぎてはおるまいか。そんなことから気にかけており。久々に話を聞く機会を得たのだけれども課長以下、全員がドサ回りの日々とか。

京浜港として国の中枢港に選ばれて幾年月。京浜港と申しても東京、横浜と勘定は別にて火花散る荷の争奪戦。弱小港が活路見出すには一社一社に利点を説いてドブ板に徹せねば任せてもらえぬ。当初は閉ざされし門も三顧の礼を尽くさばいつしか出入り許され、雑談に知る荷主の実情と見えてくる課題。自ら教えを乞うべく顧客を回る成果や着実にコンテナ取扱量の増加に結びついており。待つに得意な役所において見習いたい姿勢ではないか。

(令和2年10月30日/2603回)