裏口

味噌か塩か、分かれる嗜好はラーメンならぬサバ定食の話。注文承るは味噌二つも既に完売にて用意されしは塩二つ。店側の不手際にて勘定は一つ分にて結構、と店長。そりゃ逆に申し訳ない、他の惣菜も買っていくよ、また来ると満足げに店を後にする客。災い転じて福と為した店長の機転。ゼロとはいかぬも相手の立場に想いを馳せらば幾ばくかの被害を抑えられたのではあるまいか。全国に誇りし大規模訓練、新年度の目玉として創設されし専門の部署、「万全」と目されたはずの施策の綻び。俗に「アヤが付いた」試合は後味悪く。

概略を記さば、接種の対象とされる市内の高齢者三十万人。うち七十五歳以上が約半分を占める。十五万人に対して用意されしは四万個。殺到する申込に為すすべなく。更なる混乱を防ぐ為に残りの十五万人への接種券の発送を遅らせざるを得なかった、との顛末。

で、当日の話。パソコンもスマホも使えぬ、ひたすらダイヤルを回す悲壮な覚悟を聞かば手を貸さんとするが人の道。そこに選挙の当落があって同時刻にスマホの画面に向き合った。コールセンターの案内に「FAX」の文字ありと聞いて、その手順や理解に苦しむもオペレーターが入力してくれるとすれば、紙一枚を直接届ければ便宜を図ってくれるに違いない、と朝から現場を訪ねて見た現実。

市の不手際は議員の怠慢との叱責に防波堤とならんとする背景には何かしらの理由がある訳で、「裏口」でも融通してくれれば見て見ぬフリだったやもしれぬ。いや、そんな不正に加担せずと鳴り止まぬ電話に必死に対応せんとする姿を見れば私とて自らの行為を恥じて高い防波堤にならんとしたやもしれぬ。が、深刻な事態に対処せん、という前に「深刻」という認識そのものが薄かった、いや、欠如していたのではあるまいか。

限られた個数という物理的な制約を超えられぬ以上はやむなし、業者への委託に騒いでも無意味、暫くすれば落ち着くに違いない、と思ったか否か。高齢者を侮るなかれ。子に孫と親子三代、いや、議長まで動員されて、そりゃ違うか。老化は生理現象、相手のまごつく判断に手間取るは想定内も苛立ち募らせつつ繰り返される呼出にネット不具合の苦情等々も流れ込めば輻輳(ふくそう)生じるは当然の帰結。「売切」と知らずしてかけ続けるはまさに徒労ばかりか無意味に回線への負荷となり。ようやく繋がれど終了の宣告に憤怒の相手とあらばむやみに受話器を置く訳にもいかず。本来の「予約」が阻害される負の連鎖。

仮にそこに権利得れずとも時を待たずして次の荷が届くと知らばそこまで血眼にはならぬ。先が見えぬ恐怖に煽られし不安。不安を払拭する情報が提供されていれば。そのへんが混乱に拍車をかけた側面は否めず。他に先駆けて実績を誇示せんと焦ったツケか慢心か。進む検証に立ち込める暗雲。迫り来るその日。この重大な局面に辞任など無責任ではあるまいか。続投に意欲を燃やす議長宛に議長経験者の面々が面会を求めているとか。

それにしてもその域に及べば達観というか心の余裕がありそうなもんなれど、生への執念恐るべし。

(令和3年4月30日/2638回)