北風

マフィアの台頭を許した悪名高き禁酒法、その後に押し寄せたのは「狂乱」の時代だった、と人づてに聞いた。長く続かぬ抑圧下の政治。笛吹けど踊らぬ民に更なる措置を、と繰り出される隠し玉。蝶は追うから逃げるのであって、意固地な姿勢が逆に事態の悪化を招いておるまいか。そこには大衆を隷属せしめんとの権力への陶酔が見えたりもして。

これだけ騒がれれば当人たちとてそれなりに注意は払っとるはずも「全然足りぬ」と言下に否定されれば生じる別な感情。信用が損なわれては生まれぬ価値観の共有。不良生徒に手を焼く担任のようなもので、従わぬ背景にはそんな反抗心が少なからぬ比重を占めていたり。エリートには理解出来ぬ深層心理。私権の制限を是とするにその判断が「正しい」ことが条件であって、為政者が常に正しいとは限らず。

話を聞かぬはそこのみに非ず。日中は閑散とすれど朝は市場以上の活況を呈す生活環境事業所。庁内でも屈指の腕自慢というかヤンチャな連中がそろわば朝礼もどこ吹く風と雑談に興じる面々。されど、業務に出れば監視されずとキチンと日課をこなした上に不法投棄の処理などの苦情にも迅速な対応見せるは両者の関係が一役買っている訳で。朝礼終えて一斉に出発する清掃車を見送る所長。彼らの安全を願いつつ手を振るその姿に自然と育まれる信頼。繁華街にて外出の理由を聞く前にあのイソップ寓話に学んではどうか。

実績作りの報告は受けぬ、と拒んで以来、無聊をかこつ身なれど、単身乗り込みし車座が奏功してか市バスの運転手から話を聞いてくれぬかとの相談をいただいた。勤務時間外の時間を利用して完成させたという提案書は彼らが日々の業務で気づいたこと、サービス向上に向けた改善案が丁寧にまとめられており。それを上に提出したものの、その後はなしのつぶて、と。

路線を任されるは公募にて採用された職員。単年度の契約更新にいつでも解雇されかねぬまな板の鯉にて出過ぎては反感を買いかねぬ、所詮は「非正規」にてその程度のもの、と落胆を隠しきれぬ彼らに手を貸すは正規採用のM君。と申しても、当時、氏名を書けと言われて書いたら採用通知が届いた、以来、無事故、無違反、乗客の評判上々とは本人の弁なれど、実際の勤務態度は知らぬ。

あくまでも雇用形態の違いのみで能力が劣るにあらず、同じ市バスの運行を担うに身分の上下は関係ない、んな一文にもならぬ雑務を自ら買って出るは偏に市バスへの愛着、利用する御客様に喜んでもらいたいとの一心。たとえいかなる境遇、身分にあろうともまずはその自発的な意欲こそねぎらわれて然るべきも打てど響かぬ職場を放置するは議会の怠慢ではないか、と舌鋒鋭く詰め寄られ、けんもほろろ。

市職員が業務改善事例等を発表する「チャレンジ☆かわさきカイゼン発表会」の応募資格に特別枠を創設して。いや、表舞台に立たずともそんな職員が本市にいることこそ宝。

その後はどうか、と督促されぬことを願っており。

(令和3年5月5日/2639回)