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天下の三不如意は、賽の目、山法師、鴨川の水と知るも思い通りにならぬはそれに限らず。何と申しても第二庁舎の空調。たった一人の登庁の為に全館一台の空調を稼働させるは税金の無駄とばかりに許されぬ勝手。こちとて何もそれを目当てに登庁するものになくも、あの蒸し風呂が如き悪条件に好んで仕事をするなんぞは。と、休日に没頭、いや、耽溺するは。本の山に埋もれており。

ワクチン不足の際に誰が優先的に受けるべきか。下されし方針は「最も死亡リスクの高い高齢者」、とされるも科学の粋を結集した数理モデルによれば「社会的な交流が盛んな若者」に投与するが格段に効果的とか。業界特有の欺瞞や「しがらみ」、組織論に学ぶべきこと少なくなく。万年最下位のチームの復活劇を描いた「マネー・ボール」の著者が新たな分野に挑む。マイケル・ルイスの最新刊のタイトルはズバリ「最悪の予感」。

情が理に勝るが如く、安心に勝るは恐怖。「制御不能」との衝撃的な見出しに巷の動揺は小さからず。ならば、この間は制御できていたのかと問われれば。日々手元に届くは、年代別、区別、経路別、症状別に分類された数字。症状別は「重症」「中等症」「軽症」「無症状」の四分類。その比率こそ大差なく、いや、むしろ希釈されているように見えなくもないが、その境界や不動ならず。何よりも母数が急増すれば必然的に。誰しもが無用な要請などせぬはずにて、往来する救急車に危惧するは入院先の調整。

自宅にて一向に快方に向かわぬ症状も医者の診察に処方された薬を服用した翌日は一変、との経験は誰しも。その為の医者であり病床なのだけれども回復期の患者の受入が進まぬことが事態の悪化を招きかねぬ、と。回復期と申しても症状は千差万別。「無症状」もしくは「軽症」に近くば自宅や隔離されたホテルの一室で事足りるやもしれぬ。が、中等症となるとさすがにそうはいかぬ。

「重症」の為の病床を確保するに「中等症」枠の拡大は欠かせぬ。んな時の為の公立病院であり、市立井田病院の救急病床を56床から92床へ広げる、と聞いた。主に中等症への対応としながらも重症者や他の急患を全て拒むものになく、そこは最善を尽くすと。病床の許認可を有するは県。随分と用意周到ではあるまいかと迫らば、かねて、起こり得る事態を想定して後手に回らぬよう水面下の協議を進めてきたと担当者。

非常の事態に昼夜を問わず働いとる人がいる中に悠長に本など読んどる場合では。そう、どんな大きな組織でも危機を解決するのは公に重要な地位を占める人物ではなく、「L6」、Lはレイヤー(階層)の頭文字にて、上から数えて6番目、無名の従事者であることが少なくない、と本に見かけた。つまりは現場にいる彼らこそ、と申しても昼は目立つ、帰宅前に訪ねる保健所。

他は消灯しとるもそこだけは別世界。居残り残業、しかも「総出」に近く。悲壮感が無いのがせめてもの救いなれど、いつまでも続くものになく、問われるは市議の働き、か。

(令和3年8月15日/2659回)