終電

出陣式とはよく申したもので選挙とはまさに戦。

終電まで根性を見せんとする心意気やよしなれど、そこに消耗する体力に得られる票を比べれば。それも衆院選が如く小選挙区の一議席争うに有効かもしれぬが、候補乱立の市議選ではどうか。ならば早く寝て翌朝に備えたほうが。

始発前の駅前になびくは「変えよう!」の旗一本。空城ならば敵の策略やもしれぬが、見張りおらぬ旗など。されど、そのまま陣取るに敵の抵抗は必至。腕力でケリつけんとするに負けはせぬが、さすがに大人げなく。ならば古来、一夜にして城を築くは常道にて対岸に自らの旗を。

これがちょうど向こう側からこちらが見える。つまりは全ての駅利用客から南北いづれも目にすることが出来る訳で見比べてもらわば双方に好都合にあるまいか。が、んな奇襲が相手を刺激してか続々と集結する援軍。対する自陣や。

威容を誇りし布陣も今は昔。寄る年波には勝てず、一人減り、二人減り、体力が続かぬゆえ、朝はおぬし一人で、と。本当の話。立たされるは授業中の廊下、憤慨して着座の機会を失いし議場、と慣れているとはいえ、さすがに。そう、勝敗は援軍の数にあらず。

肝心の声が出なくては有権者への訴えが届かぬ。日々のうがいを欠かさなかったはずも突然の変調。それも告示前とあらば。この間、大根に蜂蜜、生姜に市販のうがい薬とすべからく試せども回復には程遠く、十年ぶりに診察券を。

問診にて訊かれるは職業。選挙を控えた市議、とは言えず、会社員と偽るに次なる問いはカラオケと深酒の有無。全く身に覚えがない、と正直に告白したつもりが。不摂生なきままに声が枯れるとは、もしや。声帯部のカメラ検査を終えた医師の第一声や、「癌にあらず」。脅すなよ。

処方されし薬に翌日には脅威の回復を遂げ。恐るべし医者の力、などと申しても前夜の悪あがきの効果かもしれぬし、既に回復期にある中にたまたまの診察が重なった結果かもしれぬ。いづれにせよ、既に終わったから記せるのであって。選挙チラシには「まずは健康から」と記せども当の本人が不健康では有権者に響かぬ。

そう、治療から予防へ。万病予防に欠かせぬ口腔衛生。「フッ化物洗口」なる言葉を御存じか。読んで字の如くフッ化物によるうがいが虫歯予防に効果的とされ。歯磨きと違って手軽なことから全国的にも小学校等で導入の動きが進んでおり。本市もあと一歩まで。

背中を押していただくは歓迎なれどそれと同時に見捨てておけぬは「その後」の世界。風吹きて儲かるは桶屋であっても虫歯尽きて職を失うが歯医者では。病人が減るは社会の理想なれど報われぬは医者。そこにこそ政治が解決すべき課題が。

(令和5年4月5日/2773回)