顔傷

限界に挑んだ者の宿命。便座に腰を下ろすことすらままならぬ翌朝、よぼよぼ歩きを見かねた妻に「公衆の面前にて醜態を晒すは恥と知るべし、んな自ら寿命を縮める種目を選ばずと、ゴルフとか他にも」と。

おい、「とか」とは聞き捨てならぬ。神聖なるゴルフを何と心得る、確かに芝上を歩くに膝の負担少なく「健康的」であって、ランにも勝る魅力は否定はせぬ。が、没頭せんとするに金銭、というか、時間。仕事帰りに着替えて軽く一周、とはいかぬ訳で。

かたや、自ら寿命を削るに安からぬエントリー費を好んで払う連中があれだけいるのはランにそれだけの魅力が、いや、単にバカなだけ、か。6年ぶりに100kmマラソンの完走を遂げた。

挑戦の背景や市議会の会議録に詳しく、「のべやま」と検索して表示されるは一件のみ。それこそがまさに名演説とされる私の議長退任時の挨拶。名演説は余計か。

四年に一度の改選の際には自動失効とされども選任後の任期は「慣例」で2年とされ。解任の動議でも出されるならばまだしも自ら辞表など。されど、居直るは役職にしがみついとるようにも見え。職を辞するに慣例に従うものにあらず、わが生涯に一片の悔いなし、とのラオウが如く、と屁理屈をこねて。

ちょうど4年前、到達するは68km地点の関門。完走を目指すべきか、それとも。そんな折、翌日に約束された議長の椅子がチラつき。そこに固執するに「万一」あっては折角の役職を棒に振りかねぬ。何も無理せずとも、まっ、いいか、なんて。セコかったのは事実。

ただ「のべやま」ってのは国内レースの最高峰とされ、事実、野辺山を制する者はウルトラを制す、って。あの時も後半にバテるは不本意と前半は体力を温存して辿り着いた68km。椅子がチラついたことは確かなれど、それだけの理由でリタイアするなど。

そう、あの時に残された時間は4時間。レース最大の難関、馬越峠を含む32kmを4時間というのは絶望的。つまりは完走を断念した本当の理由は攻略における作戦ミスであって椅子にあらず。まさにそれこそが「悔い」。同じ轍を踏まずに必ず完走を遂げると臨みし今回。

ゴール前では実況が場を盛り上げて下さるのだけど、ゼッケン番号2845、神奈川県の、やまざきなおふみ、あ、あれ、あーっ、なおふみセンセイ、こんなところに、あっ、ほんとだ、本人だ、なんて。実況席を見れば本市で活躍のM姐さん。もう、十年以上も担当しておられるとか。前回は途中で断念しちゃったから。

完走の代償や小さからず。スタート10km、山道に設けられた土砂の流出板に足を取られてコケてしまい、顔に派手な傷を負ったままのゴール、帰宅、そして、翌日の本会議と。すれ違うたびに注がれる視線。顔傷が勲章とされるはあの世界位なもので。

(令和5年5月25日/2783回)

2023/5/21 星の郷八ヶ岳野辺山高原ウルトラマラソン100km男子の部

出走者1,249名、完走者711名(完走率56.9%)、順位301位