満州

戦後の大物とされる人物の過去遡るにそこに行き着くこと少なからず。広き大陸にあって、どこまでも続く平原に全長二千キロ、世界最速の蒸気機関車「特急あじあ号」を実現させたと語るは地元の老翁なれど、壮大な夢とロマンを求めて海を渡りし面々を待ち受けるは成功談のみにあらず。

必需品はガラガラヘビの血清。毒蛇、毒蜘蛛、サソリに勝るはより「小さき」もの、蚊やダニ。何が飛び出すか分からぬ日々はさながら西部劇が如く。南米ボリビア開拓の体験が綴られし一冊を贈呈いただき。ということで今回は狭き国土にあって土地の権利を巡る話。

著しく破損した道路を放置するは市の怠慢、との苦情に「あれは私道」と返答すれど腑に落ちぬ表情の相手。移管に必要とされる地権者「全員」の合意。造成や昭和四十年以前、押し寄せる高齢化の波に、もはや手遅れの感否めず。今ならばまだ間に合う、あぁなる前に、と世話役を買って出たH氏。

市が貰い受けるに欠かせぬ原状回復、破損度を調査すべく派遣される市の鑑定団。査定結果によっては既存の積立金では賄いきれぬかもしれず。それこそが市議の役目。有無を云わずに「全て」貰い受けてくれぬか、と恫喝、いや、平身低頭にて得る満額回答に一件落着、と思いきや。

得られぬ合意。いや、そこはH氏の人柄にて近隣すべからく同意を得れども残る一軒。主は既に他界され、御子息の一人が都内在住と聞いて訪ねるに浮かび上がる複雑な事情。権利は既に放棄したはず、との証言も過去に申請した形跡なく。再度訪ねるに「あとは知らぬ」とにべもなく。

相手さえ特定できれば交渉の労は厭わぬ、と意気込むH氏に立ちはだかるは個人情報の壁。財産権の侵害などと申しても他に転用効かぬ道路の地権。ちゃんと相手の情報を有しとるのだから漏洩せずとも公の名の下に放棄か否か、相手の意向位は何とかならぬものか。

相続生じれば余計に複雑になる訳で、権利の追えぬ土地、半ば公の利用が常態化した土地の扱いなどもそっと公共の介入を弾力化して。たった一人の反対、というか行方すら追えぬ相手に、この間の関係者の苦労が水泡に帰すは何とも惜しく。

月々徴収される共益費に当面の心配や無用。が、いづれ底つくは明らか。その際に負担を背負わされるは不憫。何と申しても手放したくとも手放せぬ、それは不可抗力というか彼らにはいかんともしがたい状況なのだから。

超法規的な措置にて当該箇所のみ補修は市が負担するとか、権利追えぬ部分を除いて市が貰い受けるとか、と再検討を指示して去りゆく課長の背中が。「満額」にあらずと何とか。

(令和5年7月5日/2791回)