孝行

二句千円を添えて、との一文に。砂浜の波ぞ静かに秋告げる、伏す父や見舞に求む切身鮭、と。前者はレース当日の砂浜に、後者は支援者の近況知らせる一報に着想を得て。

選考委員に名を連ねる以上はその程度の権限有するに違いなく、自薦するに「無理」とにべもなく。こちとてあくまでも募集が少ないと聞いて投句しただけの話、何も本気で。後日、再会の折に「やはり残念ながら」と、向こうから。ちゃんと気に留めて下さるとは、さすが。

そう、区文化協会の会長は元市議。それどころか、こんど座談会に招かれてね、と得意げな様子に、もうぼちぼち役職を返上されては、と言いかけて、出席者の中では私が一番若いのよ、と語る本人の年齢は八七歳。長寿日本一は当面安泰か。

秋の季語の一つに「秋澄む」があって。九階に届く槌音秋澄めり、と今月の句会に見かけた。空気澄むに普段は見えぬものが見えたり、聞こえぬ音が聞こえたり。私も一句、秋澄みて入居を待てり新庁舎、と詠まば、新庁舎を見上げるに背後に広がるは空。ならば、空澄みて入居を待てり新庁舎、でどうか、と添削いただき。

忘れもせぬ、前回の着信は半年前。当選後暫くの休日とあって、祝意告げんとする相手にこちとて御礼遅れし非を詫びねば、と通話ボタンを押すに。「小六の孫が今日の試合でホームランを打って」と興奮気味の様子。この人は本当に私に票を投じて下さったのだろうか、と。

かつては甲子園への出場果たした御子息の応援に駆り出され、その後は結婚式にも。親元離れ県央にて新婚生活と聞いていたのだけれども孫が既に小六とは月日早く。そんなTさん、数年前に患いし脳梗塞の後遺症に日々の透析。リハビリに励めども勝てぬは年齢。野球で鍛えたその身体のことは自らが一番よく分かっておられ。

いづれ自由が効かぬ身、拭えぬ将来への不安に父親の心配をする息子。目の届く距離への転居を勧める息子に意を決する父。既に年金暮らしの身にてもはや贅沢はいらず、低廉な公営住宅にでも。ただ、身体が不自由にて低層、できうれば地上階に、と近隣を物色するに探し当てるは県営住宅。そこに空きがありそうなのだが。

市営ならぬ県営、それも市外なれどお願いできぬか、との依頼。御当地の県会議員を紹介するなんてのはこじれる元凶にて受けた以上は自らが。今や公営住宅の入居の抽選は「公開」が原則にてイカサマは出来ぬ。さりとて、抜け道の一つや二つ位は。そんな状況を御子息に伝えるに、夜に父君から着信あって。迅速な対応への謝辞とともに柿一つどうか、と。

当人の郷里、肥後から届いた柿も残り一つ、申し訳ない限りだが。不器用なれど情に厚く律儀で義理を欠かさぬ本人なりの気遣いと知るに。いや、何よりも柿に目がなく、ましてや知らぬ土地の柿とあらば余計に。

夜分に立ち寄って聞くは。県営の入居はしばし保留を願えぬか、と本人。その理由を聞くに、御子息との同居の可能性もあるやもしれぬ、と。

帰宅後にほおばりし柿が抜群に旨かった。

(令和5年10月21日/2812回)