裏金

享年九十一歳、世に御長寿の部に属すると知るも御生前の屈託なきあの笑顔が見れなくなるは寂しいもので。今以て畑から元気な声が聞こえてきそうな。御神輿の巡行時、自宅前にてふるまわれる玉こんにゃくと漬物が絶品。あれだけの大人数をもてなすに並みの家では。葬儀に見る家の格式。堂々として万事手際よく。

急な解散は党利に過ぎぬ、との批判も、解散をやらねばやらぬで、なぜやらぬ、と。ならば、総理新たに国民の皆様に信を問わんとするは、いうほど不自然になく。奇襲に翻弄されるは相手のみならず。対戦の相手に新人ならぬ現職を抱える選挙区にあって準備整わぬはむしろこちら側だったりも。

足りぬ人手に夜な夜なポスターの貼り替えに追われ。見かねた後援会の役員が手伝って下さるも。元来、目立つ舞台は好かぬ。主役よりも脇役、いや、脇役よりも照明に大道具等の地味な役回りのほうが性に。

それを裏金と呼ぶかは兎も角も金銭に不透明な一面がありしことは否めず。ただ、そこが最大の争点とばかりに。記者の証言によれば当方は「該当せず」とのことらしく。十羽一絡げに批難浴びるは甚だ心外。潔白と知るに悪評を払拭せんと地声を張り上げ、「彼に裏金なし」と。当選させんとの一心からの台詞なれど、通りすがりにあって刷り込まれるはその有無以上に「裏金」の二文字。そこが増長される吉凶やいかに。大衆心理って難しいよナ。

腐敗した政党に鉄槌を、と「彼ら」は叫べど。何も野党こそ健全で、与党だけ、なんてことはあるまいに。政治の世界こそ世の縮図。自らを棚に上げて他人のことだけは許せぬ、なんてヤツは貴殿の回りにも。そもそもに、かくしごとの一つもない、善人ぶっとる奴に限ってなんて話は枚挙に暇なく。他人様のことは言わぬに限る。ならば肝心の候補者の資質やいかに。

駅頭に声をかけて下さるは味方とは限らず、演説中の候補に近づき論議交わすに三十分、なんてのは確信犯。私などは意に介さぬまでも当人はずっと粘り強く相手の話を。よくもまぁそこまで。たとえ誰であれ向き合う姿勢が変わらぬ、決して逃げぬ。んな代表例が未だ記憶に残る知床の惨事。

当時、原因究明に現地に派遣されるは副大臣の任にあった当人。救助活動が難航を極める中に報道陣の執拗な取材にも丁寧に応じるばかりか、現地にて向き合うは安否不明の御家族の皆様。刻一刻と時間が経過する中にあって絶望の淵に立たされる彼らに寄り添うは並大抵の話になく。気の抜けぬ日々、胸に去来するものは。

政務官でも事務方にでも任せることは出来たはずなれど自らが身を置くと選びし判断。いや、それとてあくまでも私の勝手な推測であり。実際は当人の意志とは無関係な既定の路線だったかもしれぬ。が、目立ちたがりや、露出狂が多い世界にあって損な役回りを演じる、いや、厭わぬ姿勢はもっと評価されて然るべきだと思うけど。

(令和6年10月20日/2884回)