会話

オビには「一気読みの面白さ」と。まさに手に汗を握る展開に最後まで手放せず。読み手を惹きつける文章力は、さすが北方謙三の「推し」だけ。誰でも思いつくような話を誰が読んでもおもしろいと思わせるに、と悩んだ結果、浮かんだ答えが、「会話」。

なまなましい、いかにも本物の刑事や犯罪者がしゃべりそうな会話。海外作家ではユルモア・レナードが抜群に上手い、と巻末の一文に。エリート官僚なれど在籍や所轄の一刑事。巨大な官僚機構において扱いに困る主人公はまさに警察組織の「歩く矛盾」であり「爆弾」そのもの、との舞台設定が何とも秀逸か。

マスコミすらも寄せ付けぬ厚顔ぶりに今どきの利用者目線などおかまいなし、我こそが正義、との独善ぶりも世に一つ位はそんな組織があっても。「西部警察」に始まり、「あぶ刑事」「踊る」「相棒」と刑事モノの人気高く、どう見ても「盛ってる」、「架空」と知りつつ見入るはあの得体の知れぬ組織の内幕への怖いもの見たさも、世の治安を守り、犯罪者と対峙するにやはりあの位の威圧感がないと。「新宿鮫」シリーズ、面白いから。

川崎市議会の鮫島こと、彼が挑むも組織の腐敗。詳しい経緯は省くも。庁内に残されし一枚のメモに市長の関与を裏付ける、いや、「ほのめかす」乱筆。流出と幇助を疑われ。スケープゴードとされし当人の供述や否認。

市議に情報提供したことはないか、との詰問に他の関与こそ認めれど今回に関しては。市議に手を貸すとはけしからん、とばかり下されし処分は降格の上に流罪。が、それと肝心のメモとは無関係、とりあえず組織として何かしらのケジメをつけねば、これを機に「飛ばして」しまおう、との思惑、に巻き込まれたというのがM君の言い分らしく。

彼が処分を下された以上、提供を求めた市議とて咎められて然るべし。行政側に市議の処分の権限あらねども、氏名の公表位は出来るはず、と迫るに、公開の規則が云々と。どこが抵触するのか、法的根拠を示せ、と。顧問弁護士に相談の上、公表の可否を判断すると。やはり絵になる市議ってのは存在感を示してこそなんぼ。

紛糾した前回の定例会。そもそもに市議の質問作りに加担してはならぬ、との服務規程の存在を問われし副市長。降りかかる火の粉を察してか「ない」とにべもなく。この議場の中だって役人に質問を委ねる市議もいるでしょうに、と私の席のほうに顔が向いていたとかいないとか。幸か不幸か「たまたま」不在だったのだけれども、それはもうスゴい迫力だったとか。

質問は理詰めでくるゆえ、矢面に立たされるほうはそれどころではないやもしれぬ。が、彼の言わんとすることは。組織の腐敗を根絶せんとする彼なりの美学というか価値観を説いとるのであって。そもそもに正直者がバカをみる組織ではいかん。同じ罪状も媚びたほうが許されて正直に白状したほうが処分が重いとは何事か、と。いや、あくまでも私の勝手な推測。

市議なんぞも議場では上から目線でエラそうなことを申しておきながら、いざ地元の陳情となると手のひらを返したように。相手によって態度の豹変が著しきは。権力は自らを誇示するものにあらず、弱い立場の方々の為に。

(令和7年7月1日/2933回)