腕相撲

静まりかえる部屋内に「賛成者なし」との言葉が響くと同時に報道陣のシャッター音。議案が「全会一致」で否決される異例の事態に憮然とした表情にて委員会の審議を終えた。が、憮然とした表情なのは否決された役所側じゃなくて...私。そりゃ結論は否決で異論はないんだけど何とも複雑な気分にて...。
それもそのはず、世論は明らかなんだけど世紀の瞬間を面白おかしく実現しようとする不必要な力が働いたのも事実であって、一方ではこれまでの慣例や市長との関係に固持するいわゆる賛成派との確執も無かった訳ではない。部屋内の会議でも割れる両者の意見。そんな事態を収拾させるのが正副団長の仕事なんだけど、そりゃメンツがあるからどちらも譲らないんだ。
大勢は判明しているからそれでやむなしで従って下さればいいんだけど、そういう方々は得てしてベテランだから威圧的に来る。「おい、ちょっと正副(団長)に話が...」って時はヤバいんだけど、洞察力には恵まれているから不都合な席はあれこれ理由をつけて意図的に外す。つまりは逃げる。当日の話が理不尽なものだったことは出席した二人の顔を見れば一目瞭然。勿論、後で双方から叱られるんだけど、聞いて「いない」ほうが都合がいいこともあるんだよね。
この世界に限らず対立はあるものの世の中のモメ事は少ないに越したことはない。ましてやそれぞれに何かしらの才能や特技はあるのだから一朝有事の際には一致団結して事に臨む態勢を確立しておかねばならんでしょ。亀裂が生じた際には緩衝材ってのが必要で調子のよさがウリの私が部屋の関係修復係なんだ。
全員が私のようなヤツだったら物事は前に進まないから言うべきことを言う人が居て当然なんだけど、相手には寛容であるべきだよな。ということで悪役に徹しているのだが、「あのヤロー、また一杯食わせたな」って矛先がこちらに向けばしめたもの。ちなみに居合わせたものの苦悩はもう一人の副団長が記していたからそちらを参照に。まぁこっちは慣れっこだから苦にもならんけど...。
そう、この前、某所で腕相撲大会の予選会に居合わせた。その初戦は腕の太さから勝敗が明らかな両者が向き合う。熱狂的な観衆を前にスグに仕留めることは出来たんだろうけどゆっくりと倒したんだ。勝って静かな表情を崩さず、そこにガッツポーズは無かったもんナ。それが本当の強者ってもんだよ。
「戦いは五分の勝ちをもって上となし、七分を中とし、十を下とす」って武田信玄の格言だけど、勝って驕らず負けて僻まず、そして相手を完膚無きまでに叩き潰しちゃイカンってのが日本の美学の一つ。当時の横綱が土俵の上でガッツポーズをしたシーンが有名だけど、最近読んだ一冊に元力士の舞の海秀平氏の「なぜ、日本人は横綱になれないのか」があった。国技にも関らず外国人力士が席捲する角界だが、やはり横綱には品位がなくてはと思うのは私だけではなさそうだ。