大吟醸

雪山の遭難事故の季節、登山家の訃報を聞いた。最近は御年配者を中心に山岳愛好家が急増中だそうで、私と同い年のいつもの社長などは四十代でエベレスト登頂を人生の目標に定めて、来年から七大陸最高峰に挑戦するのだとか。おい、バカも休み休み言え。
が、確かにこの齢になると人工的な造形美よりも四季の移ろいや自然美に惹かれるもので、そんな観光名所を訪ねる機会が年々増えているような気がしないでもない。今年訪ねた軽井沢や尾瀬、沖縄の浜比嘉島も甲乙つけがたいけど、宮崎県の高千穂が良かった。えっ、いつ行ったのかって?そりゃ内緒だよ内緒。勿論、一人旅だけど天孫降臨の地とされているだけあって単なる風光明媚というだけでなく悠久の時を越えて今に残る摩訶不思議が少なくない。
高千穂神社にある立派な夫婦杉など拝めば御利益もありそうだし、高千穂渓谷では久々にボートを漕いだけど、神話の時代に力比べでぶん投げた岩があれだなんて聞けば確かに歪で人類の英知を超えた神々の悪戯と思えなくもない。天照大神がお隠れになられたとされる「天岩戸」こそ手前の神社の参拝で済ませたものの、お隠れになった際に八百万の神々が協議されたと伝えられる洞窟「天安河原」などは厳かで神秘的な雰囲気に包まれる。
で、夜は地元の小料理屋に出没したんだけど焼酎に負けじと日本酒の品ぞろえが豊富だったんだ。しかも、全て九州の酒蔵だそうで店主に薦められるままにあれこれ呑み比べ...いや、単に呑んだくれただけなんだけど、いづれも抜群に旨かった。売切れ御免の銘柄が「田中六五」ってその名前から妙に記憶に残っているんだけど「次回はそれを呑みに来るから」と勘定を終えた。それにしても安かったナ。
そうそう、挨拶回りの際に地元の酒屋で正月の酒を物色していて店主と酒談議になった。これぞイチオシの銘柄を出していただいたのだが、純米大吟醸と大吟醸があって、つい、「純米」を選んでしまいそうだけど店主曰く「大吟醸」がいいのだとか。
「純米」ってのは米と米麹(こうじ)「のみ」で作られるもの、で、「純米」でなければ製造の工程で醸造アルコールが添加されるだけに、やはり「純米」がいいとなりそうなもんだけど、「純米」は酵母の発酵が自然消滅するのに対して、途中添加するほうは人工的に止めるだけに「雑味」がなくスッキリとした呑み口に仕上がるのだとか。
醸造アルコールの添加なんていえばかつての三倍増醸造酒が思い浮かぶけど、あちらは戦後の食糧難の時代に少ない米で国内の酒需要に対応するには希釈するしかなかったとか。その名残でいまも希釈された日本酒も販売されているけど、酒税が欲しい財務省にとっては大量消費されればそれだけ税収も...。