理想郷

「好かれる人にならなきゃダメだぞ」と、その意図するところはもっと深そうな気がしないでもないが、そうおらがセンセイに教わっている。趣味も嗜好も十人十色にて万人から好かれるのはムリにせよ御年配者、なかんずく何人かの経営者の方から懇意にしていただいていて。
既に喜寿過ぎた今も現役にて精力的に動き回られたんでは後が育たぬ、息子にでも譲って隠居生活でもどうかなどと親子「以上」に齢が離れた御仁にズケズケ物申すのだが、相手とて歴戦の猛者にてどこ吹く風と受け流す。それにしても昔の人ってほんと働きもんだよナ。
大企業の雇われ社長以上に創業家、中でも創業者は独特の魅力に運を兼ね備えていることが少なくなく、田舎から徒手空拳にて上京して今の立場を築き上げたその人生から学べることは少なくない。そんなおひとりから自叙伝か人生の回想録らしき一冊の本が届いた。
さて、定例会を目前に上程予定の議案及び次年度予算について説明を受けた。各会派の正副団長は副市長室で行わるのが慣例なんだけど庁舎建替え計画に伴い、現在は仮移転中。あくまでも暫定というか「仮」だからそれでいいのかもしれんけど兎に角壁が薄くて隣の部屋の声が聞こえてくる。あれじゃ仕事に集中できん、曲がりなりにも副市長だよ、副市長。が、一方でその上司である大将の部屋は絢爛豪華だとか。
それとてあくまでも巷の噂を耳にしたに過ぎんのだけど、「見て行きますか?」との副市長の打診に心揺れるもそんなの見たらまたすぐに「あれは無駄遣いだ」なんて吹聴して回るからナ。そのへん咎めるつもりはないんだけど、何故にその格差が生じたのか。
「常識的に」本人の指示などあるはずもないから担当の点数稼ぎであって、そちらを豪華にした分だけ予算上の都合により部屋の壁が薄くなったのではないかというのが勝手な推測なんだけど、それにしても噂ってのはコワい。「部屋が立派だった」とか「彼に会った」程度の自慢話のつもりがその手の類は尾ひれが付くからナ。いや、待てよ、絢爛豪華は本人の趣味だったりして...。いや、あくまでも噂だよ噂。
そう、噂といえば「国立大の授業料が私学並みになるらしい」と妻から聞かされて「それでは国立の意味が無いじゃないか」と返答した。調べてみればどこぞの政党機関紙にそんな記述があるらしく、まぁでっちあげが得意だからな。そもそも共産主義の限界は過去の歴史が証明しているんだけど、さりとてそのユートピアに熱狂する理由も分からんでもなく。
世界でも稀な勤勉性と和を重んじる道徳観が根付くこの国こそマル共に向いていそうな気がせんでもないけど、その根底には他に依存せずとも自らのことは自らとの自助の精神が伴わねば全く以て意味を為さぬ。平等分配は損得を伴うものにてその壁を克服するのは損する人の善意。今の世の中は理不尽にてもっと富裕層から搾取しましょう、放っておいても誰かが稼いでくれるだろうでは単なるタカりの世界。理想郷はあくまでも理想郷であって現実社会は「ままごと」じゃない。そこを言わずして結果の平等分配だけ唱えるのでは...惜しい。