寝業師

人事異動の季節。二度と顔を見たくない連中だから私ならばこれ幸いと逃げるけど律義な職員などは異動の御挨拶と称して控室を訪ねて下さる。センセイに呼ばれたからといえば理由が立つから多分そのへんを口実に勤務時間内に来る管理職の方もいるんだけど、さすがに勤務時間は負い目があるせいか昼食休憩時に訪ねて来て下さった若手の職員がいた。まぁこちとら然して役にも立っていない上にそれで出世が臨めるはずもなく、それでも貴重な時間を割いて訪ねて来てくれたその心遣いをありがたく思っている。管理職ならいざ知らず、若手の職員とは面識は薄い上に上司の目もあるだろうから来る際は仕事に疲れた時、夜の案内役でよければ...違うナ。
留任であればまだしも慣れぬ異動先では会議も多くなりがち。相手が不在とあってはいかんともしがたく、前年度の政務活動費の帳票整理に追われている。それとてすぐ終わるものでもないから合間に机上の「人事異動について」なる資料を見た。「見た」なんていっても単なる職員録とは違って人間劇場が見て取れるから役所を知るに最高の教材であって、「総合計画」以上に目を皿のようにして...。あぁこりゃ左遷だナとかあの課長は相当にゴマすったナ等々。で、この春の人事異動の中でも昇進の筆頭格がやはりこちらではないかと思っていて...。
市政運営の車の両輪とされるわれらが議会。60人もいて市長と対峙するのだから60分の1だとすれば大した権限もないんだけれども「選挙」なる独自の手法で選ばれてきただけに侮れぬ存在。で、そのまとめ役、周囲より一段、いや二段位高い雛壇の上、われらが議長の隣で睨みを利かすその人物こそ議会局長であって、昨年度局長級に昇進された話題のA局長が横滑りでやって来た。
その登竜門となる議事課長を過去に歴任された時などには押し付けられる難題に困った顔で職場を徘徊、が、言う割にはどことなくうれしそうだったとは元部下の証言。今回の新任の挨拶時も「これで議会畑は二十数年になった」と全く自慢にもならぬ経歴を語る姿は本当に水を得た魚のようで。
昨年度などは局長級に昇進されて議場デビューを果たされたもんだから更なる昇進の為に登壇の機会をと随分気を遣ったはずなのだが、本人が「恐れ多い」と自重されてやれず終いに。が、今にして思えばあの謙遜は「そんな格下の役柄は演じれぬ」との芝居だったのかと気付かされる。狙い通りの椅子を射止めたその手腕は役所きっての寝業師であって何といっても厄介なセンセイ方を支配下に置く訳だからその位でなければつとまらぬかも。
そうそう、前掲の著書によれば語彙力アップには「三国志」が最高の教材だそうで、その主人公、劉備玄徳と桃園の誓いを交わした義兄弟の二人。今尚、商売の神様として崇められている関羽は上に阿らず下には優しい知勇兼備の武将なのに対して、当代随一の最強キャラ呂布に匹敵する無類の強さを誇る張飛は気性粗く上には絶対服従ながらも酒癖悪く部下には当り散らして最後は部下の謀反で往生を遂げてしまう対照的な二人。センセイとか管理職とか上には媚びて下への態度は最悪なんて評判も聞いたりする訳で。