受験

酒席にて隣のSさんとの話題がそちらに振れた。御自宅前の注意看板がふと脳裏をよぎり間一髪で危機を凌いだのだとか。息子と他人の声を聞き違えるとは何事かとの叱責。振り込め詐欺の被害者の中には金銭的な損失のみならずその後の親子関係まで険悪になる事例もあるそうでそんな話を聞くと何とも不憫に思えてならんのだけど全ては最愛のわが子の為と、そんな純粋な親心を付け狙う犯人とあっては余計に許せん。
そもそも親のDNAというか遺伝子を継いでいる以上は突然変異でもない限り末路は推して知るべしなんだけどヘンな期待をかけてみたくなるものらしく...。親の学歴が子を左右する学歴連鎖を打破すべく中卒の親と娘が難関校を目指すドラマ「下剋上受験」がちょっとした話題と聞いた。
かくいう私なども大変な教育家庭に生まれたもんだから親(正確には母親)の意向で机に向き合った時間だけは東大レベルなんだけど結果は御承知の通り。思春期の反抗心が無かった訳ではないんだけど、波風立てず万事穏便に済ます事なかれ主義は生まれつきにて恭順な姿勢を示しつつ、机に向かう退屈しのぎが横山光輝「三国志」。受験勉強以上にそちらから教わることのほうが多かったか。
田舎組だからそんなことすらも知らなかったけれど毎年その日は決まってて、陰でこそこそやっていてもその日の出欠で十中八九は判明するのだとか。「え~っ!何さんも御受験?」なんて。万が一にも風邪や流行病をうつされてはかなわんと大事を取って前日は欠席、以後、不安の連鎖で一ヶ月の長期欠席なんてのもあって、学校側とてそれほどの親とあらば触らぬ神に祟りなしと黙認らしく...。
さて、前職時代の仲間に久々に一杯どうかとお誘いすれば、翌日が御子息のセンター試験だとかでつれない返事が届いた。当人が早く帰宅したところで御子息の点数が上がるもんでもないはずなんだけど、やはり家族の「目」が理由だとか。そんなセンター試験におけるカンニングが過去最多と聞いた。受験者1万人に対してカンニングを含む不正行為が12人というのだからまぁそれほど悲観するものでもなさそうなもんだけど、カンニングといえば大学時代の試験。
留年のかかった大一番、単位を取得出来ずば翌年の授業料もばかにならん訳で、本来はそうなる前に手を打つべきなんだけど、義侠心から私が幇助することになった。縦に伸びた通路を挟んで左右に並ぶ面々、正面は背中に隠れて見えんから斜め後ろがベスト、中でも利き腕があるから相手の右後ろが絶好の位置取りにて最前列が私とO君、勿論、私が左なんだけど二列目以降の位置取りは試験前日の徹夜合宿時のゲームの勝敗とあっては神様にも見放される訳で当日の伝言ゲームは四列八人の最後尾まで届かず...。
今以て恨み節を聞かされるんだけど、そりゃスジ違いってもんで、結果、雨露をしのぐどころかキリマンジャロに挑戦出来る身分になったのだから逆に御礼の一つも返されて当然だと思うんだけど。どれほど手を尽くしても緊張から当日に体調を崩すこともあれば、万事順調に花の東大に合格したにせよその後の人生が保証されるはずもなく、親心とはいえそこまで没頭せずとも...。されどどこぞの細君はそちらの情報収集に余念なく。
(平成29年1月22日/2320回)