献血

時にその言動が単なるゴロツキに見えなくもないA兄。下手に絡まれたら厄介ゆえ自然と近寄らぬよう注意を払っていたつもりが、不運にも同時刻に居合わせてしまったものだから...やはり。朝から頭痛にめまい、貧血気味だそうで、これから献血に行かぬかと。過去の経験から血液を抜いてもらうと改善するなどと意味不明なことを申しておられたが、貧血なんてのは読んで字の如く逆の結果を招いてしまうのではないかと些かの心配をしつつも、まぁ元来、血の気多い御仁ゆえ別な効能があるやもしれぬと御一緒することになった。
慈善的側面、そして、行為そのものは何ら躊躇するものではないけれども何分にもせっかちな性分にて。以前、確か区民祭か何かの折に支援者から請われて快諾したまでは良かったものの、狭い車両の中に閉じ込められてじっと待つこと一時間。途中抜け出す訳には参らぬし、次の会場に遅参して大顰蹙、なんて苦い経験を有するだけにどうにも複雑な気分が抜けず。で、そんなA兄と向かった先は神奈川県赤十字血液センターが運営するJR川崎駅前のかわさきルフロン献血ルーム。
これが何とも寛げる快適空間に受付の親切な対応、昔から健康優良児にてそちらに御世話になるなんて機会はとんと無いだけに白衣の天使が御相手下さるとあっては...。それにしてもA兄と隣り合わせたベッド上で看護婦相手によくしゃべたな。特に夏や冬などは血液が不足しがちだそうで御世辞にも随分と喜んでいただいた。「また、ぜひ」なんて笑顔で見送られれば、「じゃあまた明日でも」なんて。が、採血後、三ヶ月はダメだそうで。そう、献血の効能か、その後に聞いたチャイコフスキーの交響曲第4番が妙に良かった。
さて、定例会も本日が最終日。このたびの所信表明では世界を席巻する排外的な風潮に「互助と寛容」なんて価値観が披露され、その崇高な理念こそ否定されるものではないけれども時にその価値観が通じぬ連中もいる訳でそれをことさらに前面に出し過ぎるのもどうかと心配してみたりもしたのだけれども...。
つい最近、知人の紹介で劇団わが町による「クリスマス・キャロル」を観劇させていただいた。チャールズ・ディケンズの作。当時、東洋英和に在籍中の村岡花子氏が出会って没頭し、いつの日か翻訳して一人でも多くの方にと夢が叶った作品。物語の主人公、スクルージは実業家にて財こそあれどもケチで有名。経済的に自立出来ぬヤツなどは放っておくべしと平然と言ってのける守銭奴。クリスマスとて天から金が降ってくるものでもなし何ら興味を抱かぬ。
が、数年前のクリスマスに亡くなった仕事上の相棒が幽霊となって現れ、金銭欲に塗れた人物の末路を説く。その後、精霊が誘う幻想の中で本人が新たな価値観に目覚め、鬼の目にも涙、眠っていた小さな善意がふとしたきっかけで花開く。宗教問わず通じる不変の価値観。生まれながらの悪人はいないなんて信じてみたくもなったりして。迫真の演技に美声による讃美歌も手伝ってか幸せな気分にさせられる。
ひと足早くメリークリスマス。
(平成29年12月20日/2400回)