名刺

どこか郷愁を誘うしゃぼん玉は春の季語、と最近知って「睦まじきもてなし受けて石鹸玉」と詠んだ。
肩書負けしてしまうからいつもそっと隠しているんだけど仲介者に紹介されてやむなく渡した一枚の名刺。「知らねぇよ」と放り投げられてしまった。周囲が凝視する中、恥を忍んで拾い上げ、新たな名刺を手渡せば「知らぬ」と再度宙に舞うこと三度にしてようやく。が、転んでもただでは起きぬ。一時間後には泥酔の本人と肩を組んで、というか組まれて演歌を熱唱。次回は横浜の料亭Aに連れていってやるからなと。
そんな韓信の股くぐりが当人との邂逅。以来、会うたびに督促をするのだけれども酒なくば豹変して。H君なんぞは御自宅に招かれて呑めや喰えやのどんちゃん騒ぎ、挙句の果てに蔵内にズラリと並ぶ酒の中から「好きなの選べ」と特上の高級酒一本を持ち帰ったなどと吹聴しとるもんだから私も劣らぬ一本を、と機会を狙っていて。
某日の宴も酣(たけなわ)に着信があって隣の私の名を告げるや帰りに寄れと言われたとかで伺えば市街地の真ん中に豪勢な平屋造りの新居。贅沢な土地利用は代々続く家ならでは。勝手にといかぬまでも旨い酒をふんだんにいただいた上に泡酒にもその銘柄が残る伊国の「超」高級車を車庫内に見つけてエンジンを。
で、H君の自慢話を元に二匹目の泥鰌(どじょう)を狙ったのだけれどもあれは本人が酔った勢いで「勝手に」持っていったのだと家主。ならば私も勝手に...違うか。が、何よりも傍若無人な酔っ払いを相手に奥様には嫌な顔一つせず手料理を振る舞っていただいて詠んだのが冒頭の一句。また市内に何ともな御大尽を見つけてしまった。
さて、年度新たな配属は未だ無所属厳禁の総務委員会。中枢を担うというよりも単に職員録の前半に掲載される局を所管するだけという話にて特別な権限を有するものでもなくそんなくだらん慣例は最大会派の団長たる私が...といつぞやに宣言して拍手を浴びたものの未だ俎上に上がらず、というか上「げ」れず。
論客ぞろいにてじっと大人しく他人様の発言に耳を立てているのだけれども報告の一つに「川崎市シティプロモーション戦略プラン」ってのがあって、いわゆる本市の広報戦略に関するものなんだけれども他会派の質疑に耳が立った。示される本市への愛着度。課外学習にて本市の魅力を尋ねた小学生に「あるわけねぇぢゃねぇか」と大人の返事。時に謙遜などと表現されたりもするんだろうけど、好きなれど好きとは言えぬ「含羞」を含めれば悲観的にならずともと。
むしろその為に工業地帯のイメージが薄らぐことへの懸念か、「Colors,Future! いろいろって、未来。」なる現市長による市のブランドメッセージに賛意を示す。確かに汗水流して働いた労働者のあの活況こそ国の成長を支えた原動力であってそこを忘れちゃイカンなんてのは私も同感。市の魅力を高めることは会派を超えた共通の課題。現状は局長級以上に限られた名刺の公費化などは経費節約云々以上の効果がありそうな気がしないでもなく。
(平成30年4月30日/2426回)