旗手

帰宅前に立ち寄りし事務所の机の上に「再度、投函を」の書置き。はて、投函を指示しておいたはずも何故に。両面のつもりが片面であったことに気付いたものの、終業間際にて後は頼むとそんなところらしく。同封物は善意の情報提供にて知らずとも何ら...いや、「それほど」不都合なく、むしろ再度届かば恥の上塗りってもんで。何事も無かったかの如くそのまま屑箱に...。
が、それが「役所」とあらばそうはいかぬ。申請書を同封すべきを間違えて対象者の名簿を入れてしまったとか。それもたった一通。当事者からの連絡により発覚、申請書を新たに送付してハイ終わりとはならず。個人情報の漏洩は重大な過失、名簿を回収した上でそこに掲載された「全員」に事実を告げた上で詫びを入れる対応に休日返上で追われたとか。それとて、みすみす不手際を知らせるようなもんで代償小さからず。
偶然か必然か、同一の区役所で続く不祥事に求めずと責任者との面会と相成った。進む働き方改革が逆に作用しとるふしはないかとの詰問の裏には残業削減を目論む勢力への牽制が働いているのだけれども「それは理由にならぬ」と相手。そこまでやよし、「小さなミスといえど今後は...」と言いかけた相手に副議長の雷が落ちた。どこか「小さい」んだ、と。
さて、師走。前職時代というか新卒時の贔屓と未だに付き合い続き、退職後も酒酌み交わす間柄にて忘年会でもどうかと今年「も」お誘いをいただいた。接待する側、される側、東証一部上場の大会社とあらば年功序列の給与体系、方やハゲタカ外資とあらば給与の差は歴然にていづれ出世払いでと過去には随分貢がせていただいた。が、当時のあの稟議書がなければうだつ上がらぬ私などはとうの昔に解雇されていたやもしれず、路頭に迷わずに今日を迎えられたのも当人のおかげ。
その後に知りし家庭事情に地元の養護学校の世話をした(と申しても単に役所への仲介役を果たしただけなのだけれども)御子息が晴れて卒業だそうで就活も大詰め。当人の性に合いそうな行先を見つけるも要送迎となるらしく。それまでも奥様が送迎を担われてきただけにそのままとの選択肢もありそうなのだけれどもこれからは自らがその役目を負うと決心されたと。
そこに立ちはだかるは社の風土。押し寄せる時代の波も護送船団を旨とする典型的な日本企業には前例なく。されど、社内見渡せば抱える事情は違えど同じ想いを抱く社員少なからず、社の模範となるべく壁に挑んでみるのだとか。あれから二十年、その間の評価は現在の役職が物語る訳で旗手に適任ではないかと後を押した。成否こそ知らぬも管理職がそれで挑戦してみようと思わせる土壌は業績良好の証かも。
そう、働き方改革などと申してもどこぞの条例に同じく勝手な解釈が罷り通りかねず。不本意な残業は是正されて然るべきも時に仕事への渇望というか意欲を削いでは本末転倒。好き好んでやるものをわざわざ阻害せんでもいいではないかと思わんでもなく。当人に勝算ありと見たか、ほろ酔い気味の相手に「もう一軒」と付き合うことになった。
(令和元年12月10日/2540回)