元服

瓶麦酒を拒む相手に「よもや年頭に揶揄した私の話をまともに受けて減量などにいそしんではおらぬか」と水を向ければ「それはない」とF市長。さりとて、上司が烏龍茶とあっては部下は美味い酒が飲めぬ。
卓上の料理に残留決め込み御託並べるは苦手ならずとも飲まず食わずの秘書の冷やかな視線、人が立つ横でメシは食えぬ。後は勝手にやるゆえ結構と退去命令を下しても付き人おらねば公衆の面前で醜態を晒しかねず、やはり警護というか随行は...。いや、それ以上に長居生むは嫉妬心。酌するが臣下のならわし、そこに他意なくも、されたされぬで騒がれては厄介。これで退散するゆえ探さぬようにと念を押して会場を後にした。
馬子にも衣装、それは私というよりも役職がそうさせるのだけれどもそこに来賓として出席して祝辞を述べる、と、箔が付く。まぁそんなところなんだろうけど、ほんとに多い。会費の支出一つ役所経由で「慎重に」吟味された上で組まれる予定に傀儡子の人形が如く自由なく。ついこないだなんぞは何かの折に勝手に軽返事をしちゃったもんだから。下準備を覆して式次第に記されし個人名に変更された司会者の台本。副議長の出席とて歓迎されるも議長「も」来るはずだと。元々は副議長のみの出席にてそこに一部の混乱を招いたとか。
成人式を終えた。元来の鈍感にて然して緊張はせんのだけれども相手の時間を奪う以上は耳立たずとも欠伸されぬ内容を。幸か不幸か不況の年に生まれ、その後も語り尽くせぬ失敗の数々も今こうして舞台に立てるは人生万事塞翁が馬、「逆境にめげるな」とありきたりの挨拶を申し上げた際に饒舌が過ぎて...。あれから二十年、年齢とともに容姿変われども意中の異性は当時と変わらず「べっぴん」のまま、などと経験談を披露すれば、世の中は「べっぴん」ばかりではありませんので言動に御注意をとの耳打ちがあった。ということで、午後は内容を一部変更して。
少子化にも関らず一部の呉服屋の業績好調と聞いた。あれだけの振袖見ればさもありなん、饒舌が過ぎるのも...違うナ。買うに安からず、貸衣装との事情は分からんでもないが、それだけの数量を調達せねばならん状況に変わりなく。誕生日の晴れ着とあらば「共有」が可能なれど、その日限りの代物にてそこで投資を回収せねばならんとなれば客の足元を見るというよりも経済の必然。
些か複雑な心境なれど人生一度の晴れ舞台とあらば金銭の支出惜しまぬ旨を中学生の娘に告げれば耳打ちならぬ物言いが付いた。そこに支出する位ならば旅にでも行ったほうが...と妻。祝うは結構なれど、衣装整わず、それを理由に来れぬ新成人もいる訳で何も大勢で祝わずと昔の元服が如く親族で。そうそう、「べっぴん」ばかりではないからナ。
帰り際、道ゆく新成人に議長の挨拶を聞いておったかと尋問すれば「オイルショックぢゃなくてオリンピック」と。そう、私の生まれはオイルショックにて同じ「オ」でも、と確かに述べた。まぁそこが肝ではないのだけれどもちゃんと人の話を聞いとるではないか。何と申してもその年に成人式とはめでたい。縁起よき西暦祝ふ新成人、と詠んだ。
(令和2年1月15日/2547回)