天秤
学歴を披露するに躊躇なくも専攻を言わばヘン人と見られること往々。その高名はかねてより存じ上げていたのだけれども著書を拝する機会なく、専門書は解読不能なれどエッセイ位ならば...。わが国が誇る数学者、岡潔氏の「春宵十話」を読んだ。些か専門めいた表現を借りれば、指数関数的な曲線を描きかねぬ懸念、十分条件ならずとも必要条件にて各位の協力を。要約すればそれで根絶とはいかぬまでも国民全体がそこを意識するだけで少なからぬ効果が。「ファイター」とて言わんとすることは分からんでもないのだけれども肝心の実用性を見るに「三密」に軍配か。
日々刻一刻と変化する情勢。大半が軽症なれど、「敵」が見えぬ、「先」が見えぬ、「人」に言えぬ、三つの恐怖が実態以上に不安を煽る。疲弊する最前線の現場を目で見ねばと深夜に区の保健所を訪ねた。いかに軽症といえども陽性と断定されれば隔離は必至にて「専用」の病床を用意せねばならず。平時から一定数は用意されているのだけれども日々発覚する陽性患者の受入先を確保するは担当課の責務。
一般病床からの転用求める要請に医療人として応じたい気概はあるのだろうけど背負う代償とて小さからず。一部の解釈によれば受入困難が医療崩壊とされるらしく。そんな病床確保に奔走する職員をよそ目に各方面から殺到する問い合わせ。医療崩壊まで秒読み寸前とあらば世間の関心も高まる訳で、用意可能な病床に余剰を聞かれてもそりゃ予測不能って話なんだけれども相手がセンセイとあらば邪険に扱う訳にもいかず。あくまでも一例ながら昼間はそちらの対応に忙殺されて連日の深夜残業に疲労回復せぬまま翌日を迎えてそちらも危険水域、と憔悴の市長自ら正副議長を訪ねていただいた。
所管課に対する対応に配慮願いたいとの申し入れ。そのへんの常識位はわきまえとる(はず)と信じておるのだけれども没頭するあまり我を忘れていたり。一部の過ぎた行為が全体の信頼損ねるは甚だ心外。個別注意が理想なれど当人の恨みは他に向きかねず。さりとて、下手に「自粛」なる二文字を使おうものなら我らが伝家の宝刀「行政の監督権」の侵害、越権が過ぎるとの反発は必至。かくも手の焼ける連中なれど看過も出来ず、議長名で異例の通達を出した。勿論、副議長の名も添えて。
医療機関との押し問答に浮上する宿泊施設の転用。事はそれほど簡単ではないのだけれども満床とあらばまずは命の危機に瀕する重症者を優先的にとはやむなき措置か。軽症もしくは無症状ならば当人とて入院は本意ではあるまいに、されど、「陽性」疑い消えぬまま退院とあらば市中にて新たな拡大招きかねず。救急車の適正利用、トリアージが如く求められる重症度別の対応。
非常事態宣言を出さぬは愚かとの批判絶えぬも無作為な制限は少なからぬ社会損失との両天秤。一人の陽性に区役所全体を閉鎖すべきか否か。学校とて然り、再開に寄せられる慎重論もそりゃ閉鎖しておけばそちらの感染は免れる上に万が一の際の責任とて逃れられる。が、両親が勤務先から持ち帰る可能性とて小さくない訳で。ゼロリスクはない中での苦渋の決断が求められている。
(令和2年4月5日/2562回)
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