鬼手

葵御紋の徳川に六文銭が真田ならば、丸に上の字はこちら。泉州の豪傑と荒くれ相手に尻込む男衆に「恥を知れ」と主人公。家宝の軍略書に記されし女人禁制の意味やいかに。軍船に女性が乗らば足手まといになりかねぬ、が、それ以上に「姫」を守らんが為と兵が修羅と化さば...。その掟破りこそが「鬼手」と「村上海賊の娘(和田竜著)」に学んだ。ついでを申せば、「姫」の名が付けば美醜は問わぬ、と。

似顔絵の作曲家もマスク姿で登場。恒例のフェスタ・サマーミューザが開幕。されど、この状況下ではオープニングの指揮を飾る音楽監督の来日ならず、映像出演とプログラムに見かけた。運び込まれる大画面、「生」中継こそ理想もそこに生じる秒の遅延は克服出来ず、流れるは録画の映像。事前の稽古が九割といえどさすがに当日の指揮者不在はイタイ。それなりに覚悟していたのだけれどもこれがどうして。コロナならではの画期的な挑戦、「不在」が生んだ不思議な力、まさに鬼手の名に相応しい演奏ではなかったか。

「新型コロナ感染、東京含む県外者と屋外でバーベキュー」との小見出しに見てとる作為的な意図。善悪とは別にそのほうが好都合な方々も居るだけに。ウイルスそのものの脅威よりも人為的な恐怖感に翻弄される影響のほうが遥かに深刻。来てくれ、いや、来ぬで結構、社会の分断が生む悲劇。移動を促すことで国内消費を喚起せんとの狙いこそ分からんでもないが、特定の業界に下駄を履かせるに壁厚く。何も県外にあらずとも。

目下、全国市議会議長会の名ばかりの相談役を拝命しており。そこに見え隠れするは圧倒的な存在感を誇る政令市の介入を阻止せんとの意図。故に会長以下、役員は一般市で回されるが慣例。県下の会長は南足柄市。初会合にて隣に居合わせし御縁。在職五期の喜寿とあらば資格十分も票足りず無所属の女性を口説いてその座を手にしたと、冗談だか本当だか、いや、限りなく本当っぽいけど、そのへんの天真爛漫さが人を惹きつける魅力か。

別れ際に任期中の御当地への訪問の約束を交わしたものの、この間に機会なく。まいど書面会議なるものでは意は伝わらぬ、やはり相対してこそ。たまにはそちらでどうかと三市の足並みが合った。三政令市の議長が揃って訪ねて下さるとは市史以来の快挙で無情の喜び以外の何物でもない、と些か大袈裟な気がしないでもないのだけれども大そうな歓迎ぶりに尽きぬ話題。

企業城下町、潤沢な税源に恵まれた当時の名残か威厳ある議事堂。かつては横浜市から移住者を募ろうと壮大な構想が描かれていたとか。最近は何と申してもこちら。検索欄に南足柄と入力すれば次なる候補の最上位は「道の駅」。現職の市長の公約にてようやく実現。さも自らの手柄の如く語る当人は反対票を投じた身だと懺悔するに憎めず。過ちて改むるに憚るなかれ、今やその立場を利用してあれだけ宣伝しとるのだから過去は問わぬ。

御当地のイチオシは「相州牛のウニとろ牛めし」だそうで。大雄山の古刹「最乗寺」の拝観に御利益を得て。県外とて観光名所は少なからず。ぜひ、金太郎のふるさと、南足柄市に。

(令和2年7月25日/2584回)