絵本

名バイオリニストのパオロ・レヴィの演目にモーツァルトの作品なく、その訳はナチス強制収容所の悲劇にあった。次々と到着する列車に運ばれる囚人が向かう先は二度と戻れぬ地獄の一丁目、知らされぬ当人たちの不安を拭うべく演奏させられたのがその曲だそうで。

本市が誇る藤嶋昭先生が理事長を務める(公財)東京応化科学技術振興財団から議会図書館に寄贈いただいた中の一冊「モーツァルトはおことわり」(マイケル・モーパーゴ著)を読んだ。財団の特使として議長室を訪ねて下さったのは市内の北野書店様。

良本との出会い、理科好きな子供たちの成長を願い、純粋な慈善活動として財団の推薦図書を県下の小学校に寄贈されていると。汚れぬようにとのフィルムによる表装処理は市内の障害者施設への委託によるそうで、本を手にした子供たちの喜ぶ姿を糧に意欲的に励んでいただいていると伺った。

社運を賭した当地への出張を頑固拒むは副社長、執拗に迫る部下に「いや、格別にない、ただ、あのシベリアで、来る日も来る日も寒さと飢えに苛まれながら重労働を強制され、骨と皮になり果てて死んでいった同胞、シベリア鉄道の枕木一本、一本が、戦友の屍であるあの上だけは、絶対、飛びたくない」と。第一巻などほぼそこに終始すると申しても過言ならず。検閲恐れるあまり靴底や布裏に縫い付けられし句、「棺打つこだまもあらず秋の風」、「春時雨小包に見る妻の貧」など架空に思えず。高視聴率ドラマにてその高名は存じ上げていたものの、彼女の作品はすべからく読むべしと聞いて手にした久々の長編。

「これは架空の物語である。過去、あるいは現在において、たまたま実在する人物、出来事と類似していても、それは偶然に過ぎない」と巻頭にあれど、本編を読まばモデルは明らか。国が威信をかけて育成したその成果は金銭に代えがたく、十一年間のシベリア抑留をへて商社マンとして活躍した元大本営参謀の人生を描くは山崎豊子著「不毛地帯」。

何も筆記試験の高得点者のみ昇進するとは限らず。最近などは異動後に「なじめぬ」との理由に欠勤がちな職員も少なくないとか。全てがそうとは言わぬ、が、仮病とて咎められぬ昨今の風潮。憂鬱な日々は誰しも同じ。どこにそんな気楽な仕事があるものか。

民間では先行きの不透明感から来春の新卒採用を手控える動きが進むとか。意欲あれど働けぬ若者。職に適さぬならばやむなしもスタートラインも踏めぬは。んなときこそ倒産なき役所の出番。買い手市場とあらば人材獲得の好機ともなり得る訳で。

立ちはだかるは制度の壁。年功序列に終身雇用は時に緊張感の欠如を生み、過去の採用判断が後年の負担となるなど、その苦い経験が今日の採用を躊躇させる一因。いや、選考とてたかだか、一、二回の面接で当人の内面を見抜くなど神業に近く。

ならば、予備役が如く数年間の臨時採用として機会を与え、その間に「じっくり」と相手を見極めるは双方に有益と思え。民間の採用抑制の長期化を見据えた更なる採用枠の拡大を求めており。財源?「別荘」があるぢゃないか。

(令和2年11月25日/2608回)