更地

ハードボイルド作家の北方謙三氏によれば、まるい食堂の上ロースカツ定食、ということらしいのだけれどもこちらも劣らぬ。久々にありついた池田屋のカツカレーが抜群に旨かった。夜に侘びしく昼こそ贅沢に「大盛」と。

僭越ながら、と見せられし一枚には新年度の予定。先のこと言わば鬼が笑う、まだ、三月定例会も開幕せぬ前から。いや、そこに記されし「議長選挙」の四文字こそが僭越の本意らしく。もう一度申し上げるが「辞表は書かぬ」。が、目下、庁内の関心は議長の動向ならぬそちらだそうで。

残留か移籍か、気になる辞令、と申しても所詮は車が変わるだけで。当該局だけは任命権者となるらしく「教えてくれぬか」と運転手。本当に知らぬ。そもそもに粗野な連中にて品位を損ねかねず、玉座からは遠ざけるべし、との意中は黙して語らぬはずも年度末を以て退去、更地返還を迫られているとか。

移転先は別棟と聞いてさもありなんと頷いてはたと気づいた。目の届かぬところに置くはかえって危険ではあるまいか。とすると見越してそこを融通した当時の深謀や侮れぬ。そんな職場の管理職とあらば悩む人選。只者ならぬ雰囲気にはかねて一目を置いていたのだけれども私の目にも狂いなく。過去に異例の抜擢をされた実績がおありとか。

猛獣の中に放たれた乙女、とは形容が過ぎたが初の女性管理職の登用。甘えは許さぬと辣腕振るう当人に面従腹背とはよくいったもので陰に付いた愛称がその二文字。それは貫禄の為せる賛辞に見えなくもないのだけれども事実を知りし当人、「私はあなたがたのママではない」と一喝。

以降、当該部署の服務規律が飛躍的に向上したという武勇伝、いや、逸話が残る。そんな稀有な人材を埋もれさせるは損失。社長にはただ逸話のみを紹介しておいたのだけれどもよもや今回の目玉に、んな訳ないナ。

閑話休題。数年に一度の更新期とあって、指定管理に関する議案が少なくない。従来の直営からの脱却はコスト縮減、民営化を図ることで新たな需要と競争を促し、利用者サービスの向上を狙う趣旨なれど見えてくる課題。貸家に同じ、老朽化著しい施設の修繕は所有者の責務。そんな依頼は多かれど、ない袖は振れぬと市。

ならばいっそ施設を「無償」にて譲渡するゆえあとは勝手に、と方針を転換したところ募集に手を上げしは既存の運営法人一社のみか、応募なし、つまりは既存の運営法人とて辞退、という散々な結果だったそうな。公設民営の特別養護老人ホームを巡る話。

一施設ならば法人側の運営に原因がありはしまいかとなるも、複数、いづれも小規模となれば根本的なところに。既に終の棲家としての利用者もおられる訳で継続の意向あれど、将来的に安定的な運営を確保するに困難というのがその理由。規模小さきゆえスケールメリットが働かぬと。

ならば何故に小規模としたか。見つからぬ受入先に一床でも早くとの時代の趨勢がそうさせた訳で。修繕施さねば部屋が埋まらぬ、一方、昨今などは駅近、築浅以外は候補にあらず、との需給の乖離も。仮にそこを許諾したにせよ立ちはだかりし次なる壁。

運営は最低二十年以上、土地は譲らぬゆえ断念する際は更地返還が条件、と。あの「頑丈」な建造物の撤去に要する費用や御存じか。

(令和3年1月25日/2620回)