長髪

パワハラを理由に辞職した、とされる「あの」議長。当人の証言によれば、騒動の最中に出回りし怪文書に「コロナ下に親子でゴルフ」なる一枚があったとか。

パワハラかゴルフか、仮にそれがマラソンであれば別な展開になっていたのであるまいか。いや、なっていないと思うけど、その種目に特権階級の贅沢なる認識があるとすれば「はしくれ」といえどゴルファーの一人として反論しておかねばならず。

マラソンなど「歩く」延長にて老若男女を問わず、半袖短パンに運動靴とありきたりの恰好で十分、プレー代、いわゆる大会の参加費とて当時は五千円に満たなかったはずもいつしか相場は跳ね上がり、靴に衣装に付属品とて洗練されて、むしろゴルフ以上に高くつく現実は知られておらず。

M兄からの久々の着信に聞かれるは契約更新の有無。継続を決意させるは事故時の補償ならぬあの特約。いつか必ず、一打で。ホールインワンの話。仕事中の事務所にひょっこり顔を出すはおらがセンセイ。話題や他になく、いや、失礼。世界の舞台に目立つ日本勢の活躍。競馬の凱旋門賞かゴルフの男子メジャーか、後者が先とはまさに世紀の快挙。

そう、この種目の残酷さというか妙味に続かぬ成績があって。栄冠に輝いた選手が突如として不振にあえぐケース少なからず、その理由の一つとされるがスイング。優勝する位だからその時のスイングこそが最善との解説もその境地に達した者にしか知り得ぬ悩み。単に遠くへ飛ばさんともがく私とは次元が違う訳で。試行錯誤以上に開眼に到らぬ精神的な葛藤の方がスコアに響きはしまいか、とは余計な心配。

大会の最中とて「何か」をつかまんと練習に没頭する王者。振り向きざまに発する「これだ」、が開眼の証と。巻頭に登場する一枚の写真。グリーン上にてガッチリ握手を交わす二人。片やその種目の愛好者ならば誰もが知る王者トム・ワトソン。なれど、この物語の主人公は相方の長髪の若者、ブルース・エドワーズの生涯を描いた「天国のキャディ 世界で一番美しいゴルフの物語」ジョン・フェインスタイン著。

当時、大抵のプレイヤーが「彼ら」に望むことといえば、遅刻せず、クラブをきれいに手入れして、バックを運ぶこと、とされた時代。たった一打の勝敗、脇役といえど貢献できるはずと研鑽を積むブルースに訪れし幸運。日雇いの身分にて今日の主人を探さんと待ち受ける前に通りかかる若き日のワトソン。

「ジーンズを履いた長髪の若者なれど礼儀正しかった」と。その実力があれば他の相棒でも為し得たかもしれぬ。が、少なくともワトソンはそう信じていた。「彼がいたからこそ」。その後、難病ALSに世を去るまでの日々に窺い知れる王者の人柄。

そう、陳情への異例の早さの対応に依頼主から御礼の電話をいただいた。「直電にて現場を急かしただけ」と返答すれば、「それだけでは現場は動かぬ」と相手。そこに窺い知れる両者の関係こそ大事にすべし、と教わった。

(令和3年6月20日/2648回)