夏蝶

期を同じくして羽根田桃園の「あかつき」が届き。被災地に躍動する選手たち。「少々の風に屈せず夏の蝶」と句会に選んだ。猛暑下に生を受くる以上、蝶とて力強くあらねばならぬ。

自らも負けじと「河川敷晒す裸体や夏の雲」と詠んでみたものの、「裸」は夏の季語。つまりは季重ねにあたると。甲羅干し、に着想を得て裸体を背中に、いや、「背」と書いて「そびら」と読むのだそうで。「河川敷晒す背や夏の雲」と見違えるべく。

再編進むは市場のみにあらず。日々あれだけのランナーを抱えつつも拠点なく。皇居周辺然り、みなとみらい然り、大阪城公園も然り、「拠点」が生むにぎわい。川が有するあの開放的な雰囲気は他にない魅力。上流を目指すもよし、下流目指すもよし、橋を渡って東京方面と変幻自在のコース設計。

何も贅沢は要らぬ、ただ、シャワーとロッカーさえあれば。あわよくば「ついで」にテラス席に冷たい麦酒など提供出来れば天下るM局長の人件費くらいは何とかなりはしまいか。等々力緑地の再編整備計画に秘かに狙う公園緑地協会の土地活用。

閑話休題。最近の一冊に河合香織著「選べなかった命」があって。出生前診断に告げられし結果は「異常なし」。医師の誤診に生まれた子供は重度の障害。数ヶ月の闘病の後に儚い一生を終えた。誤診なくば、と医師を相手にした訴訟、関係者への取材を通じて根源的な問いに迫らんと。

出生前診断に告げられる現実に中絶を選択する人は少なからず。胎児に選択権なく、時に親のエゴになり得はせぬか。異常があれば中絶する、ならば障害者は不幸な存在であって、世に生を受けてはならんのか。あくまでも心の準備とされた診断が決定を「大きく」左右している現状、いっそ診断なくば煩悶とて。しのびよる遺伝子検査の足音、より詳細な検査が可能となれば命の選好とて真実味を帯びたりも云々。

現行の法体系によれば中絶を認めるは「経済的な理由」にて「胎児の異常」は含まれず、その弾力的な解釈とてさすがに過ぎた面はないか。世には不妊に悩む夫婦とて少なからず、神から授かりし命を何と心得る、と申しても安易か否かはまさに神のみぞ知る世界。重度の障害に数ヶ月の苦しむだけの生涯は望まぬ命か。それは安易な選択かもしれぬ。が、一方で他人様には知り得ぬ苦悩、懊悩とて。

葛藤に悩むは妊婦側のみにあらず、結果を伝えねばならぬ医師や助産師。直接に向き合う医師ならば相手の判断に何らかの助言が可能も助産師となるとそうはいかぬ。当事者の決定を無条件に是とせざるを得ぬ職分に疲弊することも。医師とて他意なく訴訟に巻き込まれる位ならば事務的に説明責任を果たさんとせぬか、等々。

前述の裁判において直前に訂正された原告側の訴状。誤診なくば中絶「していた」と断定するが有利、と再三にわたる弁護士の説得に母親が下した結論は。「かもしれぬ」、生まれた子を見て言い切れなんだと。

(令和3年7月25日/2655回)