唐黍

入塾の際に提出する書類、父親の職業欄に記すは「議員」の二文字かそれとも。合否を左右するに及ばず、政治信条の違いに生徒に向き合う真剣度が変わるなんてことはないはずも、他方、それが票に結びつくやもしれぬと不埒な下心が芽生えぬとも限らず。露骨な二字にあらずと日々の会話にそのへんが推測できたとか。

冴えぬ成績に日々数字を求められる営業職が如く。課せられし党員獲得のノルマ。追い風ならばまだしもこの状況下に新規加入など。突然の電話に「入党希望」と聞いて耳を疑わぬまでも、善は急げ、気が変わらぬうちに、と用意された会員証を片手に訪問の意を告げれば、「その際に聞きたいことがある」と意味深な一言。

およそ政権への苦言が妥当なれど折角の顧客とあらば無碍には出来ぬ、真摯に耳を傾けてこそ、と意を決し。会費の受領後の尋問や政治ならぬ家庭事情。双子はおらぬかと聞かれて頷くにかつて英会話塾など、と。奥から顔を出された奥様がまさにその先生だそうで。

非常に印象に残る生徒だったとの一言に、おかげさまで現在「も」英語の成績は上々、などと知りもせぬことを。「スマート」なる単語を痩せていると勘違いした思い出話などを懐かしそうに語っておられ。肝心の入党の経緯は知人の紹介だそうで縁とは不思議なもの也。

が、そんな牧歌的な時代も今は昔、英会話ならぬ進学塾の夏期講習に明け暮れる日々。つい最近なんぞも盆の帰省を打診すれば「それどころではない」と妻。んな言い種あるまいに、そこを疎かにしては運も味方せぬ、などと申さば大騒動に発展しかねず。いや、むしろ「独身」のほうが好都合だったりもする訳で。

本屋の棚に見る巷の流行。並ぶアウトドア本に人気の高さが窺い知れて。眼下に見下ろす池の畔の赤い小屋。その向こうの山々に白く残るは雪渓。そして、雲海が広がり。雑誌「山と渓谷」の表紙を飾る絶景は白馬大池。ちょうど経路上でもあるし、夏に山小屋で過ごすもまた一興。

夏休みといえば山に海、ということで、車内に流れるはクロード・ドビュッシーの「海」。そして、欠かせぬ「食」。途中、採れたてのとうもろこしにかぶりつき、道の駅にて手に入れた「メロンの粕もみ」など酒の肴に抜群の珍味。ほんと旨かったナ。

さて、天候不順というか天気の急変が予想される季節。常任委員会において新総合防災情報システムの報告を受けた。システムに投じた費用は約一億五千万円。運用に年間二千万円。豪雨災害、河川の氾濫に限らず、現地からスマホ等により入力、地図と連動した情報が表示されることで全体の状況が把握できる、と。

システムとしての機能、内容は十分に分かった。が、あの東日本大震災の教訓を生かすならば、災害時に殺到するアクセスに回線が繋がらぬ。そこにこそ最大の障壁がある訳で、道路なくば車は走らず、まずは「繋がる」こと。そして、万が一の「不通」の際は自らの身は自ら守る、まずは土台を固めてみぬか、と。

(令和3年7月30日/2656回)