私用

ほんの数日の不在に飛び交う憶測。サボリ癖は地元に知れ渡るところなれど、この肝心な時期に姿を見せぬとはよほどのことに違いない、と重篤説まで囁かれ、安否問うメールが各方面から。

それこそが狙い、などと傲慢なことは申さぬにせよ、存在を忘れられぬだけまだマシか。生まれてこの方、布団の中に一日を過ごすなど仮病以外に、いや、仮病ならば尚更。失踪するにも後援会長にはちゃんと「私用」と告げて。

百キロも離れぬというに山脈が隔てる明暗。物流止まるに企業活動もままならぬ。何も好んで去ったものではあるまいに。人材を吸い上げる都会に対する田舎の嫉妬心や尋常ならざるものがあって。

あちらにあっては郷里を捨てた不義理者、こちらにあってはヨソモノと揶揄される中に、晴れて昇殿を許され、元旦からめでたき酒にありつけるとはひとえに総代以下、氏子の皆様のおかげ云々と謝辞を述べるは地元の神社におけるひとコマ。

全国六位の人口などと申してみても大半は市外からの移住者、のみならず、そんな移住者とて住まいは「仮」であること少なからず。とすると土地への愛着など。それとて自由、そもそもに末代まで此の地に住み続けんと立派な豪邸を建てたはずも、同居を拒みし子の都合にて空き家になった事例など枚挙に暇なく。

一方の、いわゆる土着の人とて先祖代々と家系の古さを誇ってみても開闢以来そこにいたものになく。いつぞやの戦乱に由緒ある血統を存続させんが為などと真田が如き美談に仕立てられるも、実際のところは一族の中の反目、ソリが合わずに都落ちとか、およそそんな側面とてなきにしもあらず、とはおらがセンセイの洞察なれど、なかなかの慧眼ぶりにあるまいか。とすると。

大台突破の流出額。たび重なる報道に増幅されるは負の感情。この土地に住んでいて恩恵を享受しとりながら他市に貢ぐとは許せぬ、そんな恩知らずはこの土地から出て行け、と憤懣をぶつけられても。んな勝手な価値観の押しつけなどまっぴらゴメンとばかりに。いやいや、そのごった煮が如き雑多性こそ本市の魅力。個性を色になぞらえて「Collor’s Future」と唱えてみても減らぬ流出額。

かくなる上は、と道義心に訴えてみても、幼少期を育んでくれた故郷への恩返し、過疎に悩む村を救わんと支援して何が悪いとの反駁されては。いや、それすらも実際にはどうか。その玉石混淆こそ本来の趣旨を大きく逸脱するものと制度の是正を求めんとするも。流出過多は都市部に限られ。

去る者は追わず、返礼品を魅力あるものにしようとの結果が上限一杯の商品券では芸がなく。これこそが本市ならでは、と並ぶ品ぞろえもこちら側の勝手な押しつけであって相手から見れば。ならば、いっそゴルフの会員権。いや、ソレならずともそれが当たる抽選券でも。

ちょうど、あの臨海部に横たわる広大な土地がある訳で。あそこに風光明媚なゴルフ場を。百億円の損失埋めるに、その位の大胆な発想があっても。夢は大きく、壮大な計画の実現を公約に。アホか。

(令和5年1月10日/2757回)