増減

「徹底的に現場主義」と「いつだって現場主義」。類似する二つのキャッチコピー。よもや盗作にあるまいか、と申しても政党も違わば印刷所も別。とすると偶然の産物と見るが妥当なれど、向こうや県議選を首位で制しておられ。やはり「現場」の視点こそ首位の秘訣か。冗談。

その地位を脅かすものがなくば腐敗するのが権力。どこぞの知事選などは選択肢が限定的というか、一つしかなく。そこに当人が気づくか否か。我が世の春などと謳歌しとるとすれば有権者には何とも不幸なことにあるまいか。

開票当日の夜、事務所に一人二人と詰めかける支援者。合否待つ受験生が如くの緊張感は当時に比べて薄らいだとはいえ。十分後の当確などどこへやら。テレビなどは一向に横並びのまま。少なくとも「現場」では既に大勢が判明しとるはずで。じっとしていても落ち着かぬ。一刻も早くその目に、と現場に向かうは後援会長。

厳粛な雰囲気の中に行われる開票。いち早く知るは各陣営から派遣される立会人。途中、抜け出してトイレに行くフリをして、トイレの窓から落とされる紙に待ち受けた伝令が公衆電話に走る、なんてのは昔の話。今や誰でも。

積み上がる票の束は十九、あとは端数だ、とのメールが届き。一束五百にて十九とあらば一万には足りぬ。前回は二十のはず。眼鏡をかけてもう一度、とは事務所に残る面々の冷やかし。されど、笑うに笑えぬ。隣りの候補とて束はほぼ同じ。いや、向こうが上かもしれぬ。第四コーナーから最後の直線、後続の猛追にハナ差の勝利か。

さりとて、首位なる栄冠は変わらず。「二位に終わる男はすぐに忘れ去られる」とは前掲のヘイグ自伝からの引用。巷の関心や一に当落、二に順位なれど、事情通とあらばそれにもまして関心抱くは票の「増減」。「増える」と「減る」では大違い。潮位の干満、前回に比べて増えるはどことなく勢いが生まれ、減るは落日を連想させかねず。朝の来ない夜はなく、雨降れどいつかは晴れるもの。祇園精舎の鐘の音に悟るは盛者必衰。栄華極めた平家とて。

人は飽きやすきものにて常に脚光を浴び続ける為に腐心した、とは躍進を果たした政党の元代表の回顧録。有権者を掴む以上に掴み「続ける」ほうが。突飛な言動に得た票は失うも早く、ならばジワリと増したこの票はそう簡単には。いや、減っちゃった。あくまでも今回だけの浮気票、日和見な無党派層が他候補に流れた、などと分析しとるようでは次も危うく。

そもそもに都合の悪きことは伏せるというのが世の鉄則というか処世術の一つ。ゆえにあくまでも「一位」だけを宣伝して「減った」など伏せておいたほうが身の為と知りつつも。脅かすものなくば怠けてしまいますゆえ。

競走馬の世界とて二の脚なるものがあるから

。(令和5年4月15日/2775回)