十郎

いつぞやの迷言、「政治家に徳目を求めるは八百屋に魚を求めるに同じ」になぞらえて。

顔の美醜に品位の有無を問うは云々、と言わぬまでも。品位に欠ける、と今さらながらに浴びる妻の一言。復元に時間を要するは「老化」が原因と知れど、機能が喪失するものになく、むかし転んだ膝のすり傷が如く皮膚の新陳代謝にいづれ、と。

未だ残りし顔アザが生む地元の評判。転んだらしい、そこまでは事実。されど、どうせ酒に酔って、の「どうせ」が取れて事実が如く。全ては自らの不徳か。転倒が山道とあらば応急処置かなわず、殺菌に紫外線が有効、などと無防備のままに。傷口の日焼けは致命的、と「後」に聞いた。他人様の顔をあまりジロジロ眺めぬよう。

三市で占める人口は県の六割、集わば自然と用意される上座。そこにふんぞり返っていては。小さな市ほど気遣い忘れぬよう、との助言の主や初登庁時の局長。議長就任の際にいただいた手紙の中に。奇しくも当時の会長職は南足柄市の御年配。

当人の人柄に教わること多く、任期満了迫る中、表敬に訪ねた際も市制発足以来の快挙と御当地を案内いただいた記憶が残り。あれから二年、今回の改選後にその御名なく、消息を探るに引退後は病床に伏せる身となり、見舞すらかなわぬと聞いた。

局を上げての一大イベント、みずみずフェアに見かけし見慣れぬ面々や市外からの出店。県西の酒匂川の上流に位置する山北町は足柄郡の一角を占め。同町が有する丹沢湖は県広域水道の水源地として果たす役割小さからず。

本市とも水を通じた交流が育まれたとか。疎遠になりつつある交流を再び、との申出に、過去の経緯すら知らぬ非礼を詫びつつ、この隠居の身で役に立つならば。近づきの印に、と購入するは「十郎」の梅干し。梅が名産と聞き。

おらが地元とて先代から続く梅農家ありて、梅を学ばんと門を叩くにちょうど迎える収穫期。人手が足りぬと聞いて。閑静な住宅街に残りし梅畑にて香に囲まれての収穫。たわわに実りし梅の実を一つづつ、これが本当に夢中になれるもので。仕事を忘れて自然に向き合うは何とも贅沢。

そう、梅といえば忘れえぬ逸話あり。大軍にて兵糧の確保ままならず、壮絶を極める決死の行軍に倒れゆく兵士。この山を越えれば梅林がある、そこで好きなだけ、と士気を鼓舞するは曹操の知略。目の前の青き実をそのままかじらんとするに「やめたほうがいい」と主。

ならば加工品はどうか。ランに欠かせぬ塩分の補給に適するは梅干し。減塩が健康的などというけれども、やはり梅干しなるものは、あの口をすぼめるほどの塩味にこそ。

そう、夏野菜の代表格トマト。ハウス栽培に品種改良も進み。最近の子供たちなんぞは「このトマトは甘くない」と評するとか。以前であれば甘き一品は「フルーツ」トマトと別扱いされていたはずで。やはり、あの滋味というか青臭さとて。古いか。

(令和5年6月20日/2788回)