子羊

オープンとはその世界ではプロアマの意。ましてや発祥とあらば国名など。「ジ・オープン」とは全英。後続が母音にて冠詞は「ザ」ならぬ「ジ」、余計か。彼こそが最強説はこちらに限らぬ話なれど、全英を制する者こそ。

歴史有する中にあってそれ以前から繰り広げられる名勝負。創始を見ぬまま、一年前に世を去りしアラン・ロバートソンを以て最強とか。何せ四十四年の生涯無敗。セントアンドリュースとマッセルバラ、名門の威信をかけたウィーリー・ダンとの一戦など。

当時はストロークプレーならぬマッチプレー。つまりは総打数ならぬホールごとの勝敗。つまりは全一八ホールの白黒で。そう、今日とて耳にするスコア自慢も天候とコース次第にて尺度にならぬ。まずは、いかに「カッコよく」「きれいに」球を飛ばすか。模倣こそ上達の秘訣と知りてそのように振れども自らの録画を見れば似ても似つかぬ不恰好。頭で理解すれども伝わらぬは音痴の証拠か。

ならば、と指導仰ぐは地元の名手Hさん。練習場にてこちらの打席を見とる中にあって。私のクラブを手にするや、こうすれば、ほら、ちゃんと。いや、自らはそうしとるつもりにて。天賦の才に恵まれし御仁には下々の苦悩など。師事する相手が違ったか。かたや、運動センス抜群、誰しもが認めるゴルフ狂のI君に教わる秘伝。貴殿の身体能力を以て真剣に臨まば一年後には地元に敵なし、とおだてられるも。

日に「最低でも」百球、とにかく無心で思いっきり叩くこと。理由など聞いてはならぬ、とにかく実践あるのみ、三月も続ければ人が変わる、と。そりゃ変わるでしょうよ、別な意味で。再現性が求められる種目にあって基本動作に忠実であること、との意は察すれど、修行僧じゃあるまいに、んな狂気じみたことで上達など。

いや、それとてこちらの上達を期待する善意と知るも、この種目に言い訳と教え魔は多く。こちとて後発組にて従順に従わんとする中に食い違う両者の理論、あちらが立てばこちらが立たず。足して二で割ると申しても事はそう単純ならず。次回までに、との念押しに都度、打ち方を変えるなんぞ。

まさに迷える子羊の心境と吐露するに来客のNさんが一冊の本を届けて下さり。そのままハワイで二ヶ月と旅立っちゃった。「苦悩の散歩道」(ジョン・フェインステイン著)。

ランならば走った距離は裏切らず、それだけの余裕が生まれるも、こちらなんぞは振れば振っただけ生ずる迷い。それこそがこの種目の魅力だったりもして。たかが棒を振るだけのことにそれほど夢中になる心理が分からぬ、と妻。たかが棒振り、されど。日焼けの理由を聞かれるに何故にランは許され、ゴルフが憚られるのか。んな世の偏見に立ち向かうべく。

そう、ランとて、ぼちぼち出場レースを選ばねばならず、昨年を振り返るに走った距離は1,549km。ゴルフもその位、没頭すれば。いや、センスだから。

(令和6年1月21日/2830回)