肩凝

部屋に入ると次官は立ったまま、机上の厖大な書類に目を通しては無造作に判を捺していた。「いちいち中味まで目を通していては肩が凝ってかなわぬ。見る人は盲判などとからかうが、書類を書いた奴の名を見れば言わんとすることは」。本からの抜粋なれど、肝心の主人公、いや、肩凝る主とはその人、山本五十六に他ならず。「人間笹川良一」(山岡荘八著)より。

栄に浴すは誰かしらの推挙あればこそ、推薦人への恩を忘れてはならぬ、とは、おらがセンセイ。記す希望が叶うか否かは運次第。詰めの一手に市議の推挙あらば。こちとら名を連ねるにやぶさかならずも、庁内にヘンな力学が働かぬとも限らず、それがかえって仇とならぬか。そこの判断を含めて、と言い含め。そう、人事異動の話。

移動距離の拡大が生みし恩恵。発明に劣らぬは広く大衆に普及させた功績。夢の実現に時代の変革を成し遂げた本人が綴る熱き想い、ヘンリー・フォード著「藁のハンドル」。彼らこそが最大の顧客、彼らが自らの商品を買わずして誰が。会社の屋台骨となりしはいつの時代も「彼ら」であって、そこを蔑ろにしては会社の成長など。

そう、有権者以上に我らが働きに関心を寄せるは「彼ら」。何せ自らの仕事を左右しかねぬ重大事。局長室とあらば話は聞こえず。よきも悪きもあれだけ「あけっぴろげ」に。聞けずとも一字一句が残されし会議録を読まば。

退職金はその名の通り「退職」時に支給されるものであって、いかなる理由があろうとも前払いなど断じて認める訳にはいかぬ、との答弁に。んな役所みたいなこと言うな、いや、役所だったナ。

定年延長を理由に待ってはくれぬローン返済。何も延長をせずと当初の年齢に退職すれば従来通りちゃんと支給される訳で、返済に困らぬではないか。延長はあくまでも権利であって義務にあらず。行使するせぬは当人に。いやならやめろ、と言わんばかりの冷たさに。もそっと情があって然るべき、んなつれない対応があるか、って感想を述べるに留まるも寄せられる反響や少なからず。

つい最近も、まさに同感、よくぞ申して下さった、と「彼ら」より。同じ釜の飯を食っとる仲間が苦境に立たされ、救いを求めとる中にあって、他ではあれだけの悪知恵が働くのだから今回とて。残留組との格差を理由に三セクの給与を上げる余裕があるならば、その前にまずはこちらを優先すべきでは、と公に言わなんだが、彼らにも彼らなりの。

何せ公務員は本市に限らず、他市どころか国の官僚とて同じ制度上に置かれる中にあって本市だけ「特別」など。そう、つまりは護送船団にあって、抜け駆けは他の反感を買いかねぬ、というのが本音というか。いや、そんな恩恵に預かれるはほんのわずかしかいないかもしれぬ。が、時に彼らとて市の顧客にも成り得る訳で。そんな配慮一つが彼らの仕事への意欲に、なんてのは淡い期待か。

いや、何も制度を変えよ、などと大それたことは言わぬ、あくまでも抜け道を。押される背中にもう一度。

(令和6年1月25日/2831回)