大人

罪状によらば、質問書の案文など議員の質問に資する文章を作成し、その情報を議員に提供した、その回数述べ十四回云々と。将来を目されし人物の栄光と挫折。調査対象が別ならば私だって。というか、市長の関与をにおわせたあのメモの流出こそ本命。あとはおまけか。

ただでさえ尾ひれ付きがちなその手の話にあって、追い詰めるにはちと。紛糾の委員会に再調査を約束させて矛をおさめたつもりが、再調査は再調査でも彼らの狙いや。それこそが人の心理というもので。嫌疑不十分につき、どころか、越えてはならぬ一線、だったりもして。

知己得る当時の肩書は主任だったはず。兎にも角にもキャラが立ち過ぎてか異動を重ねてその部門にいることは存じ上げていたのだけれども、ちょうど一月ばかり前、帰りの南武線にて隣席に並ぶにどことなく。そこに司直の手が迫っていたとは露知らず。

検討の指示は購入を意味するか否か。前例踏襲こそが文化の役所にあって新規参入に高い壁。話すら聞いて貰えぬとの声とて少なからず。そこを口利きで何とか。向こうとて市議の紹介とあらば無碍には出来ず、第一関門だけは。

既存の業者だけではそれこそが癒着などと疑われかねず、視野広く選択肢は多い方が。そりゃ口利きと申しても中には恫喝じみたものや、受け手側にそう思わせてしまうものもあるやもしれぬ。が、そこは大人の世界。頼む方とて頼まれる方とて。そこにはある程度の自制心が働くのがこの世界。

相手の立場を斟酌すれば両者ともそれなりのところで。そこに痛くもない腹を探られ。これこそが私物化の証拠とばかりに。公の場、常任委員会にて鬼の首を取ったが如く騒がば、その後の展開は予測できそうなものなれど。

上からの圧力への抵抗があったのやもしれぬ。が、あくまでも備忘録的なメモが付されしその文書が「怪」文書ならぬ「公」文書として誰しもが見れるところに置かれていた訳で。議員に提供したとされる本人は当時の経緯など知る由もなく。着任後にたまたま目にした文書。

賢い役人ならば、不都合なことは知らぬに限る。見なかったことに、いや、聞かなかったことに、とは大人の対応。故意に内部文書を流出させた罪とて消せるものではないけれどもそんな文書を公文書として残した責任とて重罪だと思うけど。

いや、入手側とてそんな世界に生きとるのだから当人の意を酌みつつも適当な着地点を見つけることとて出来なんだか。異なる立場の二人がそろってアクセルを踏んでは。信頼するほうされるほう、人を見る目こそ。いや、んな罪人といえども、その一事を以て人格まで否定されるものになく、たまたま人に恵まれなかっただけの話。

今回の一件に広がる波紋。市議と職員、遠ざかる両者の距離に、組織が畏縮せぬかとの懸念。折角の部活動とて不適切などと自粛されるに不利益を被るは私だけかも。大山騒いで鼠一匹。鼠とは失礼ながら。以降はそんな視線に晒されながら余生を過ごすのだろうけど、それだけの才能を埋もれさせるは何とも惜しく。刑期を終えたらメシでも行こう。

(令和6月2月20日/2836回)