牛歩

白雲なびく駿河台、は校歌の一節。そびゆる母校から遠目に見ゆるその大学。今春から甥が上京。入学祝いの約束を果たさんとするにそこは学部違い、自らのキャンパスは都心ならぬ「郊外」と。最寄駅を教わるに知らぬばかりか漢字も読めず。

都心から電車に揺られて一時間、降り立つにバス停一つ。不慣れな土地にまごついとる間に乗り遅れ、次の便まで三十分。ならば歩いたほうが。見渡す田んぼの中に突如、姿を現すキャンパスはさながら城砦。陸の孤島の様相も体育会系にはその位ほうが。

駅前にしてそんな状況とあらば徒歩三十分のキャンパス周辺など。いや、焼肉店が一軒。ましてや店名に本市の名が付かば。日々の練習厳しく、店の予約は夜八時で頼む、と甥の指示。帰りに要するは二時間にて一時間一本勝負。親子連れでにぎわう店内。それにしてもよく食べたナ。

さて、本題。ここ数年、「継続」扱いの要望の一つに歯科医連盟からの虫歯予防の為のフッ化物洗口があって。根絶されるに彼らの食い扶持が失われるやもしれぬ。しからば患者増こそ彼らの理想にあるまいか。いやいや、彼らとて大事な「顧客」といえども治療のたびにあの歪んだ顔を見るは精神面にもいいはずなく。

専用液にぶくぶくうがいだけで目に見える効果。それも乳歯から永久歯の生えかわり期こそてきめん。幼児期から習慣化されれば。既に実績少なからず。追跡調査によれば実施の有無により成人後の歯の状態に大きな差異が見られるとか。

相手が支援団体とあらばほぼ無条件にゴリ押し、を見せる市議を相手に「却下」といえぬは役人。要望の実現を阻む大半は予算の壁なれど、こちらにあっては予算以上に。うがいといえども生じる新たな手間は働き方改革に逆行、というのが相手の言い分とされ。何を寝言じみた、んな屁理屈など聞くに、大ナタ振るえぬ市教委。

市議と現場の板挟みにあって下せし判断は「要検討」、それも「慎重」の二文字付き。遅々として進まぬはいつぞやに見た「牛歩」を連想させ。私ならばとうに堪忍袋の緒が切れとるところなれど、要望の担当や堅実派のN君にて粘り強き交渉に勝ち得るは。論より証拠、案ずるより産むが易し、とりあえず「試行」、と折り合いをつけ。

自薦、他薦、抽選のいづれや知らぬ、選ばれるは各区から一校、全七校の平均や27.5%。さもありなん、実施に欠かせぬは保護者の同意。そして、同意に欠かせぬは現場の勧奨。その意義をキチンと説かねば保護者とて協力してくれるはずもなく。

下位なんぞにいたっては一桁台、高くとも33.5%。いや、もう一校、というか、一校だけ「突出」して高く、その数字や96.8%。と二位に大きく水をあけ。

やはり現場とてやる気あらば。いや、待てよ、ひょっとして。そう、校名を見るに浮かぶはあの校長。いっそ次期の教育長に。また余計なことを。

(令和6年7月20日/2866回)