互換
突然の電話に依頼を受けるは客人の相手。それも見知らぬ外人な上に当の依頼主は不在と。んな勝手な話がどこに。
在住歴が長く、日本語は堪能。目下、大学の講師なれど政府委員やその他諸々、その分野では知る人ぞ知る著名人にて無駄な一日にはならぬはず、と押しつけられての18ホール。以来、その豊かな発想力と斬新な視点に学ぶこと少なからず。
何も縦割りは役所の専売特許になく。それは時に「互換性」なる専門用語で表現されたりもするのだけど、それを許さば新たな脅威に晒されかねず、そこは断じて、と優先される排除の論理。他の参入を許さぬ、囲い込みは企業戦略としてはアリなれど、いかんせん「公共」のシステムにあって利用者目線以上にそちらが勝っては。
一方の発注側とて過去にウン十億円を投じてきたシステムとあっては手放すに手放せず、仮に他社を採用することで不測の事態あらば責任を問われかねず。結果、互換性のないまま、使い勝手の悪いシステムに、安からぬ対価を払い続けて、と。
社内では主流になりえず、パソコンの修理係の認識しか抱かれぬ部署にあって変革など。専門性が高いがゆえに意味不明、オタク相手のようなもので。行政を監督すべき議員側とてその手の専門家がいない、いや、専門家ならずとも目が届いてさえいれば彼らの独走は防げたはずで。
その一枚で完結すれば複数のカードを持ち歩く手間は省けるし、便利との理屈はよく分かる。が、余命幾ばくの身にあって、既存の一枚さえあれば他はいらぬ。新規とて結構、が、既存とて何とか継続を、と拝まれれば役人だって。んなことないか。そう、廃止とされる健康保険証の話。
情報化が進む隣国では既にスマホ一つで免許証から保険証まで身分証明書として通用するばかりか、現物とて自宅にいながらに。ひいては納税から各種手続きまで全て。かたや我が国にあっては金券の配布に保険証の廃止、アメとムチを使い分ける中に普及率の向上を図らんとすれども伸び悩む数字。
そこに立ちはだかるは個人情報の壁なるもので。勝手に番号を割り振られるは権利侵害と。当人が思っているほどに相手は、なんてオチがつく漫談があるそうなれど。漏洩阻止に抜かりはない、といわれてもどことなく落ち着かぬ空気感に包まれて。どこかにあったなそんな本。山本七平著「空気の研究」。
あくまでも「任意」とされる中にあっては「全」国民とはならず。とすると持つ者と持たざる者に二分され。そこに各種の情報を連動させんとなると従来以上に膨大な手間が。ならばいっそ誰もが有する既存の一枚、そう、保険証を主軸に他を紐づけては、と思えどもそれを阻むは組織の壁。
どこぞの省庁に屈服するかの如き屈辱など。いや、そもそもに互換性を認めぬ、が彼らの標準。その点、隣国では既に全国民が固有の番号を有するばかりか、各省庁が有する情報は省庁のみのものに非ず、相互融通を図るべし、と政治が主導して。
進む情報化社会に死角はないのか。実り多き視察を終えた。
(令和6年8月15日/2871回)
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