合唱

出生の年や同年、のみならず生誕地まで。生前の邂逅なくも後にその道の父母と称されし二人。大陸に残りしバッハに対し、産業革命に沸く英国に活路を求め、海を渡りしヘンデル。

年末の合唱は第九とは限らず、久々に「メサイア」を聴いた。荘厳なオラトリオ、第二楽章の最後を飾るは「ハレルヤ・コーラス」、今以て演奏中に一部の聴衆が立ち上がるは当時の名残とされ。

予定表を見るに、こちらにはその他大勢の一つなれど、あちらにとっては待望の一大イベント、冬季ボウリング大会。満を持して臨まんとすれど、八十半ばにして。ある日の就寝後に彼を襲うは十五分に一回の尿意。翌朝に階下のトイレ前に寝込みし姿を奥様に発見されて。診断結果や前立腺云々。

手術とあらば欠席やむなく、一度は辞退されたはずも再び連絡を受けるは三日前、やはり「やる」と本人。排泄は人が生きていく上で欠かせぬ機能の一つ。そこに狂いが生じるは全体のバランスを損ねる訳で。カテーテルによる手術にそれ用の袋までぶら下げては歩行すらままならず。何もそこまでして。

ボールの重量にふらつく足下。投げるに要する時間。1ゲームでタオルを投げんとするに、まだこれから、と本人。迷惑を顧みぬ本人なれど、おおらかに見守って下さる周囲に恵まれ。昔の杵柄、不自由を補わんと試行錯誤のボウリング。見事に3ゲームを投げ切り、ストライク3回は立派。が、それで終わらず。

後の予定あれど、憔悴の当人を放置するに忍びず、送り届けんとの帰り道。そのままあの世に逝かぬように、との一言が余計だったか、メシでも食おう、と本人。いや、御自宅で奥様が、と促すに、勘定は私が払うゆえ、と。いや、勘定ならぬ後の予定こそ、と再三。

告げられる行先や「とんかつ」。量こそ少な目ながら、豚汁含むかつ丼を「旨い」と平らげ。二日後に着信ありて当日の御礼とともに、あれ以降の体調すこぶるよく、と。疲労の回復に欠かせぬ睡眠。疲労度が高ければ高いほど効果も。よほどぐっすり寝たんだろうな。

呼ばれし会合では所定の会費を払い、私用では割り勘以上を支払うに当然の権利がある訳で。食欲こそ健康の証。酒に料理に無遠慮が続き。連夜の宴に帰宅遅く、そのまま寝込むこと少なからず。熟睡のはずが疲労残りし理由や前夜の酒。脳を麻痺させるがゆえに錯覚生じやすく。

取れぬ疲れが招くは免疫の低下。それでいて翌日も、となれば通勤は電車。寝不足に二日酔い、免疫の低下に満員電車とあらば罹患するのも。堕落した日々、いや悪循環に別れ告げるべく年明けにレースを一つ、距離は五十か百か、もちろん。

そう、徒歩に立ち姿勢とて気にならず。電車の利点や移動途中の読書。車ならそうとはならぬ訳で。背広の内ポケットにしのばせるに文庫本は最適。まぁそれ以外に何でも押し込んであるがゆえにボタンとて。

そう、直近の一冊や「大観伝」(近藤啓太郎著)。ボウリングの御老体が曰く、日本画の中でも彼は「別格」と。以来、皇居ランの折なども一足伸ばして。不忍池のほとりに当人ゆかりの名所あり。春夏秋冬、四季折々の庭を愉しめ。そんな大観自身も酒豪として知られたところで。

(令和6年12月20日/2896回)