鷹狩

客殿にてふるまわれしあの酒は確かに旨かった、されど、正月から二日酔いなんてはずは。やはり身体は正直、欲せぬ体調は万全ではなかったに違いなく。

些かの違和感あったのは事実、翌三日とて人手が足りぬと聞いて寒空の下。疲労残りしままの身体に追い払う免疫なく、意識が朦朧とする中にあって夜メシ食わぬまま布団に倒れこんでしまい。翌日にはすっかり回復見せるも咳だけが。

しばし後に異変を見せるは息子。急患にて告げられし結果や陽性。処方薬を渡されてあとは安静に。それで閉幕のはずが。繰り広げられるは責任論。おぬしこそが戦犯、受験を前にどうしてくれようこの始末、とものすごい剣幕で迫られても詫びて治るものになく。

そもそもに症状が違うばかりか、早朝に家を出て深夜に戻る日々の生活。寝室とて別な訳で、父子の会話なき家庭にあって。むしろ、塾に買い物に外出しとるのだからそちらの要因のほうが。

自らの不注意を棚に上げて罪を人になすりつけるような親にろくな子が育つはずなく。ましてや終わった話、過去を遡って云々などどこぞの市議の質問ぢゃあるまいに。世には学歴よりも大事なものがあると知るべし。

閑話休題。神聖な議場にあって一般人が公の役職を拝命するに起立一礼が慣例。一人づつ呼ばれて緊張気味に一礼を見せる中に一名だけ。一礼ならぬ右手を上げて。いや、そこに私を含めて見知った顔が多かったはずなれど、前代未聞の行為にどよめく議場。貫禄十分の大物感を見せたのは。

年始詣は寺神社。次なるは町会長宅、と毎年。土地の名士ゆえ。玄関にて迎えて下さるは御令嬢。正月談議に耳立つはその話。正月に父娘で映画に行かれたらしく。そこまでは何ともほのぼのした話なれど、娘の証言によれば、見入る映画に隣の父が号泣だった、と。

目に涙くらいであればそこまで心動かなかったはずも「号泣」と聞くに。白い巨塔に挑む、というか、自由を謳歌する中に求められればどこだって。執刀の患者や相手を選ばず、当人の命を救う為に。主演を演じるはあの女優、未知子カッコよかったね。やはり自由人というのは世のあこがれであり。

そう、正月十日を待たずして錚々たる顔ぶれが集う中に欠席などあるまじき。目立ってなんぼの世界と知れど、今さら大物感を演出せずとも。仕事の舞台はそこになく。壇上で紹介を受けるに「いた」という事実さえ知れ渡れば。

が、上には上が。おらずして話題に上がるはその人。それこそがまさに大物の証。何せ年齢が年齢だけに生まれるはそんな憶測、よもや。居場所をご存じか、真顔にて聞かれる消息も返答に窮し。そう、早朝の駐車場にて目撃するは後ろ姿。「センセイ、今日は大事な区の賀詞交歓会が」、なんて声をかけんとする隙を見せずに足早に車に乗り込まんとするは、まさに隠密に出かける殿の鷹狩が如き。

そこにおればただでさえ目立つ、人が群がるはずも。本人にはもっと大事なことが。昨年はエイジシュート百回を達成されたそうで。

(令和7年1月10日/2900回)