草鞋
請われるがままに名ばかりの会長職を幾つか。口は挟まぬゆえ御自由に、と伝えてあるものの、寄せられる相談とは。総会が迫る中、顧問に名を連ねしあのセンセイ、落選の身にあって処遇やいかに、と相手。
顧問なる役職は本人ならぬ当時の肩書に付与されたもの、ということは当人にも分かりそうなもので。自ら辞退、それも、この間の御厚意は生涯忘れぬ、などと加えれば株は上がりそうな。いや、そこまでの機転が利かば先の選挙とて。「出席」との返事に迎えた当日の挨拶。
今や無職の身にあって気づかされる現実。朝起きて行く場所がありし日々は幸せだった、との述懐。今やふんだんに時間あるゆえ、と。会員数の減少と高齢化に悩む当会にあって期待の新人、貴重な戦力、喜んで迎える、と喝采を浴び。捨てる神あらば拾う神あり、塞翁が馬、か。
孤独感に苛まれるは彼のみにあらず。奥方は未だ現役、犬の散歩に家族の夕飯の支度、それですら時間を持て余す日々に届くは開催通知。そう、役所の左遷組を集めた通称「しまながし」の会。朝に集いて夕刻までただ走り続けるだけの会。動くは足のみならず、止まらぬは口。勝手、言いたい放題も疲れ知らぬ連中にて。
退職後とて我こそが主役、と出席するは元区長。まぁ確かに会というか部活とてこの御仁が始めたようなもの。隠居とて侮れぬはその観察眼。久々の再会にあってそこに目が行くは「通」なる証拠。そのシューズはもしや。かの理論や否定せぬどころか、むしろ自らも実践する身。されど、何も好んでそんな高額な商品を買わずとも手作りの草鞋で十分、と。
専門用語では「ベアフット」というのだけれど、実は過去にも注目を集めし薄底サンダルに惹かれたことあり。されど、シューズならぬサンダルにあって、そもそもに鼻緒だけで足を維持するなんてのは。いや、それでも購入せんと店に足を運べば品切れ入荷未定とされ。あの時でさえも、たかがサンダルが安からぬ値段。ならば今回はいかに。
靴底の部材のみネット経由で入手してあとは自ら。材料費1,600円、工賃は無償で結構。正式には「わらじ」ならぬ「ワラーチ」。原住民などはこれを履いてゆうに百キロは走るとされるも、たった1,600円の草鞋もどきでそこまで走るは草鞋の効能というよりも日々の習慣の違いに負うところが。まぁ損はさせぬゆえ、と私の事務所まで出張いただくに。なんていい人なんだろう、いや、よほどヒマなんだナ。が、いかなる駄作であろうとも善意の手製は金銭に代えがたい価値あり。
そう、支援者の一人が入院されておられ。半年前などはほぼ寝たきりに会話すらままならなかったはずも、当該の介護施設に移って以降、すこぶる体調良く、ぜひ会いに来てくれ、と施設長。いや、確かに。自らの足で歩けるばかりか区内どこぞのラーメンが旨いなどと会話も上々。
施設長曰く、改善の極意や二つ。一つは清潔感を保つこと、入浴も然り、着衣も然り。そして、もう一つは昼寝。と申しても「させぬ」こと。何せ昼にやることなくば寝るは必然。それで夜を迎えるに睡眠は浅く、度にヘルパーが呼び出されては。昼に寝かせぬ為に知恵を絞るに夜の負担がぐっと減ったとか。
草鞋作り然り、昼間に用事があるというのは生きる上でも。
(令和7年4月30日/2921回)
0コメント