榮川

「そびゆる妙高」の歌詞で始まるは母校の校歌。山に抱きし想いは特別。会津といえばその山にて、麓をぐるり一周、会津磐梯山ウルトラマラソン。100kmならぬ65kmの部の完走を遂げ。

湖の名が物語りし風景。一面に広がる水田。田植え直後とあらば稲も小さく、水面に浮びしは磐梯山。されど、所々に休耕田とて。減反からの転換と申しても戻すに要する手間と月日は畑の比にならず。それでいて押し寄せる輸入米の脅威に買取の保証とて。

世界的な気候変動を騒ぐならばまずは国の食料自給こそ。臨終を遂げるに餓死だけは。それにしてもこれほど旨いコメを白米ならぬ丼物とは。御当地の名物やソースカツ丼だそうで。勿論、食すは「前」日。

悩む宿泊先。温泉旅館かビジネスホテルか。満腹では闘争心が掻き立てられぬ、贅沢は敵、「質素」「空腹」こそ完走の秘訣。そもそもにカツ丼なんてのは。そちらは譲れども譲れぬは。

寝具の清潔感。むしろそれさえあらば他は、と選びし宿は一泊2,200円。それも税込み。大半が出稼ぎと思しき外人客なれど意に介さず。これで十分、と床に就いて気づかされるは薄壁。廊下のスリッパ音に何度起こされたか。寝不足で迎えし当日。

コースは一つ。距離によってスタート地点が異なるだけで。65kmとあらば表ならぬ裏磐梯から。麓一周と申しても道はコンパスが如き正円とはならず。前半はゆるやかな上り、標高差400mは軽からず。その後は下り続いて猪苗代湖に到達。途中、林を抜けて目にするは地元の酒蔵、榮川酒造。従業員の女性が手を振って声援を。

湖畔や平坦にて景観に癒されつつ、適度なペースで歩を進め。55km地点にて追いつかれしは赤ゼッケン。つまりは100kmランナー。一桁が意味するは特別枠。招待選手か前年度の上位者か、それも男女混合にあってかの永久欠番を付けし女性とはタダものにあらず。

が、こちとてタイムこそ平凡なれど歴30年にしてくぐりし修羅場は数知れず。しばし並走、と申してもほんの100m位。残り10kmゆえ完走は何とか、とこちらが自信をのぞかせるに、このレースはここからが、ラスボスには気をつけて、と意味深な一言を残し。

そう、ラスボスとは難所の意。50kmを過ぎての坂、それも標高差300mの上り下りは。上りはさすがに歩いてしまい。最後は見渡す田んぼの農道をただひたすらに走り抜いて掴んだ栄冠。ゴール後にかけられるメダルと渡される賞状こそ完走の証、だったはず。

昨今は後日にホームページからのダウンロードなどとそっけなくもあったりして。時代の流れと申しても卒業式の証書をネットで、と言われるようなもので。たとえ、モノは同じでもやはりその「瞬間」になくば。

んな寂しさを補うは風呂。地元の旅館が日帰り湯を提供して下さり。スタッフもすこぶる親切な猪苗代観光ホテルの湯に癒されて。前夜の寝不足に完走、それもフルならぬ65kmとあらば当日の熟睡は必至、と思うは早計。疲労が勝るはほんの数時間、あとは寝返りのたびに筋肉痛が。完走タイムは8時間31分15秒、114人中39位にて。

(令和7年6月15日/2930回)