満車
待たせるよりも待つほうが。それは相手が誰であっても。それにしても約束の三十分前は早すぎか、いや、もう一人。バスならぬ徒歩を選べどもまだ早すぎて隣の古本屋に。物色してたと語るHさんは清掃の元職なれど、手にするは一枚のCD。それもショパン。どう見てもロックのはずが。聴くに心が癒される、と本人。
かたや同じく再就職組のI区長なんぞハマるは「山」。それも百名山だそうで。田舎育ちのトレイルランナーたる私とて山との相性悪からず。すっかりそちらの話題で意気投合。日程さえ押さえてくれればあとは全てこちらで、と向こうの言い分に「年内に必ず」との約束を交わしてみたものの、迫りくる当日を前に日に日に高まる緊張感。
何せ冬眠前のエサ不足とあらば余計に殺気立つが彼ら、などと聞くに。不安はないか、といわれればウソになり。不運にも被害に遭われし方々の心境は察するに余りあれども、最愛の人を失いし悲しみやそこに限らず。交通事故に比べれば件数とて。
過信は禁物、細心の注意払うに越したことなくも、本市の市議が全て獰猛とは限らぬが如く「彼ら」の中にも、いやいや。台風報道に同じ、映像は衝撃的であればあるほど効果的。あくまでも「目撃」との事実もその映像と連動されるばかりか、連日あれだけ「上位」で流されるに。
そう、いつぞやも恐怖心を煽られるに生まれし「自粛」。あれ以来、内向的な方々が急増。それこそが禍根とは言い過ぎか。いや、それとて個人の判断には違いないけれども意図された報道を真に受けて盲目的に追従するに。退化する思考回路こそ当人にとっての損失にあるまいか、なんて。
ゴルフの発祥を巡る言説や様々なれど、公の文献に登場するはスコットランドの禁止令。国民こぞっての熱狂ぶりに国防が疎かになりかねぬ、と。んな国とあらば戦時下とて。そう、発せられし戒厳令にも怯むほどヤワな国民にあらず、と何かの本に。
こちとら知恵を有するホモサピエンス。クマ如きで動ずるほど。むしろ、空前のブーム下に登山客が減るは好都合にあるまいか、などと虚勢をはってみたものの、拭えぬ不安。いや、不安と申してもクマそのものよりも。万一の遭遇にケガでも負おうものなら大々的に報道されて「軽率」との誹り免れず。いや、それ以上に自宅に帰らばクマ以上に恐ろしき相手が。向こうから「中止」もしくは「延期」の打診あらば、と互いに牽制し合いて、言えず迎えた当日。
道中、会話交わすに抱く罪悪感は相手も同じ。やはり近場の温泉に留めておいたほうが、とは口にすれどもUターンの気配なく。何せインター下りて山道を走るに見かけぬ車。平日とはいえどもこれほどの行楽日和に皆無、人影なしとは。報道の力ってのはスゴいんだな。そこのカーブを曲がれば登山口。かくなる上は、と覚悟を決めて。
いやいや、駐車場はほぼ満車。ばかりか到着のバスからも続々と。懲りぬ面々はどこの国にも。それこそがまさに絶景、旧千円紙幣の裏面に描かれたあの風景が。I区長に用意いただいて山頂で食べたカップ麺が最高に旨かった。
(令和7年11月15日/2960回)
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