大人の対応

詳しい経緯は省くが、机上にメモが置いてあった。当選回数二桁の衆議院のセンセイ、いわゆる「代議士」に電話してくれとあって、メモには相手の携帯番号が記されている。当選回数7回の田中和徳センセイでも緊張するってのに、さすがに一度も話したことが無い大物代議士とあっては大変失礼なことは承知しつつも仕事の合間に...。「はい、はい」と本人の気さくな声。そそくさと切り上げるそぶりもなくじっくりと話をする事が出来た。やっぱり期数を重ねたベテランってのは器が違うんだナ。
議会に上程された市長の特別秘書の議案を巡って緊迫の日々が続く。市長は面会謝絶だそうで徹底抗戦の構えか、様々な憶測が駆け巡る。記者が私のところにも来るんだけど緘口令にて報道対応は団長のみ。まぁそもそもにそちらは疎い、というか君子危うきに近づかず、パワーゲームには参加せぬ性分にてネタなどあるはずもなく...。そんな重苦しい空気の部屋に居てはいい仕事など出来ぬ。ここはやっぱり...。「メシでもどうか」と後輩を誘った。
巷には言語道断という否定的な声が圧倒的に多い中であえて賛成という選択を取るメリットはどこにあるのか。長年否決されたことが無いなどという慣例を名誉だと思っているとすればそれこそ噴飯もの。市長の追認機関と揶揄されていることを御存知か。慣例を継続する以上に何が市民の為になるのかの判断の結論が賛成か反対かってことなんだから。まぁ伊達に重鎮の丁稚奉公をやってきた訳じゃないからね。今も思い出す言葉があるんだ。
私がバッチを付ける前の話。当時の市長選の推薦候補者を巡って部屋の中が二分された。対立する両陣営。多数決で出された最終結論に背いて相手候補者を応援した方々が居た。で、結果としてそちらが勝っちゃった。少数派が時の権力者を勝たせた構図なんだけど、多数派にはアイツらこそ反逆者だとの遺恨は残る。
それから数年後、私とサシの席で重鎮がつぶやいた。「オマエらこの4年間何かいいことあったか」って(少数派の頭領に)言ってるんだと。どこまでも付いていきます下駄の雪では相手に上手く利用されただけなんじゃないのかと言いたいらしく。そ、そうか、いい蜜を吸えるかどうかが重要なんだナ。
で、若手とのメシの席にて向こうが切り出した。「いや、あの時は迫力が違った」と。ある日の請願の審査。「そんなことでいいのか」と詰め寄る私。最終的には相手の答弁を引き出して質問を終えた。次の質問者は民主党(当時)の名うてのM氏にて更に追い討ちをかけたとか。あれだけまくしたてたんだから結論も当然...。
が、採決時に判断を求められた私は隣の先輩に「お任せします」と委ねたとか。拍子抜けしちゃいましたと笑う本人にそれこそが大人の対応ってもんじゃないかと伝えた。「もう一回はあの時ですね、カッコ良かったのは」と若手。そうか、2回「しか」ないのか。