悪童

目下、知人の薦めで「福翁自伝」、そう、福沢諭吉センセイの自伝を拝読していて、天下の偉人ともなれば幼少よりさぞ神童だったに違いないなどと想像してみたりもするのだが、これがどうして中々の...。
「当人は藩の御家中の若旦那にて厚く頼む」などと他人の名を借りたニセ手紙で一宿一飯にあずかったり、神仏の御加護など信じぬと祠の石を捨ててみたりと中々の悪童ぶり。やはり善人に越したことはないけれども巷には脅しや偽善的なカラクリが多数用意されていて、そのへん俗悪的な知識の会得が現代の教養教育には欠如してるから、その典型となる公務員などは時にもっと捻くれた角度で物事を眺めてみてはどうかと思うのだが。
そうそう、何年か前の話。夏休み前に一件の留守電に些かドスの利いた声で苗字だけが残されたものがあった。あまりいい気分はしないものだが、特に用件も指示もないから無視すれば翌週に同様の留守電があった。思いあたるフシがない訳ではないのだが、やはり放っておいたらこんどは役所に伝言が残っていて指定された番号に折り返せば案の定...。近隣の開発を巡り、私のもとに相談があって違法行為はダメだと当然のことを役所に伝えただけなのだが、余計な介入はするなということらしく一度「直に」話をと。こちらから出向く意向を伝えたものの、来るというから、ならば...と、サシで会うことになった。
で、当日。運転手付きの黒塗りからイカツイ背格好にサラリーマンっぽくない風情の男性が下りてきた。やっぱり... ツイてないナ。些かの場数は踏んでいるといえイヤなもんだよ。相手も諸事情があるんだろうけど、こちとら背負っているものもある訳で...。本人曰く、そちらでは多少の顔らしくどこぞのセンセイも私の案件であれば譲歩するんだと豪語するから「オレは知らん」とキッパリ。そもそもに何も悪くない善良な市民を泣かせた上にセンセイを恫喝するとは言語道断、内容云々以上にその威圧的な態度がどうも好かん。争いごとは好まん事なかれ主義者なんだけど、おとなしく下がれなどと言われると反骨心というかヘンな意地が燃えてきて...。
何とか撃退できぬものかと機会を狙っていたんだけど、途中、党幹部の誰それと昵懇だと実名をチラつかせたもんだからここぞとばかりに「だから何だってんだ。だいたいアンタみたいなヤクザもんに言われて下がれるかっ!」って、鬼の剣幕でまくし立てたら、どうやらその言葉が相手の琴線に触れたらしく一緒にするなと顔を紅潮させたもんだから勝負ありとふんでトーンを下げた。「兎にも角にもそちら(=近隣)とうまくやれば文句は言わん。但し、くれぐれも脅しはイカン」と念を押して、帰り際には言葉の非礼を詫びつつ、丁重に見送れば、不思議とそちらはピタリと止んだ。