野ざらし

地元の名産柿をこよなく愛するNさんから自叙伝的一冊が届いた。傘寿の節目を迎えてとのことらしく、その内容も然ることながら表紙の写真、自慢の柿の木の上で孫たちと戯れる姿が何ともほのぼのとされていて...。
「通信簿見る愉しみや初桜」と一句。相対評価ならぬ絶対評価だからおよそ丸が並ぶ平凡な成績なんだけど、生活態度は責任感と協調性に丸が付いていて親に似て中々...一部余計か。巷ではイクメンなどと騒いどるけど父親が口出しをせぬほうがかえって利口者に育つのではないか。ということで、全く疎遠なPTA会長は立派な見識に人柄を備えていねばなれんらしいけど、こちらは「順送り」だけによほどのことでも無い限りは期数と所属会派で回ってくるだけに別に他に自慢出来るもんでもなく。
通称、議運と呼ばれる議会運営委員会の委員長を仰せつかることになった。まさに読んで字の如く運営そのものを協議する委員会にて他は対「役所」なれどこちとら会派同士だから時に利害が対立することも。市長、議長が出席する御前会議ならぬ本会議で失態は許されず、事前に芽を摘んでおくようにとのことらしくまさに縁の下の裏方。
選挙で勝利した与党が総理はじめ内閣を総取りする国会に対してこちらは二元代表制だから別の選挙で選ばれた市長がいて、大臣に相当する局長は選挙敵ならぬ役所の公務員だからさすがにあそこまで紛糾することはない(はず)なんだけど、さりとて各会派とも正副団長という主力部隊を投入してくるだけにやはり他とは緊張感が違う訳で...。
ここだけの話、恥ずかしがりやな性分にて、挨拶、それも即興とあらば尚更で不得手なんだけれども初回の冒頭にそんな機会が回ってきて、前任なんぞは民主主義とは何ぞやなんて高尚な話を滔々と語られたとか。でも、待てよ、釈迦に説法、歴戦の猛者の方々に上から目線で長々と話してはかえって不評を買いかねぬ、「低姿勢」で「短め」に終えた。
そもそもに順送りなどというものは資質に「関係なく」回ってくるもんだから好かんのだけれども不運なことに私の前後は特にキャラが立った二人、あえて実名は伏せるけど、前門の虎と後門の狼。まさにビルの谷間、東京と横浜に挟まれたどこぞの市が如く...前にもどこかであったナ、そんな話。
ということで会派部屋内も席替え。正副団長の三役に何故か議運の委員長を含めた面々が四役などと呼ばれているらしく最前列に座る席次。本来であれば年度末の一斉移動のはずが各自の都合が折り合わず。たまたま今回は昨年辞職したセンセイの席が空席にてそこを活用してところてん式に玉突きの要領で押し出されて順を重ねて前に進んでいくから早めの移動もいる訳で。
後門の狼から「早くどいてくれぬか」と督促されて既存の席を空けたはいいけど、移動先には前門の虎が居座っていて退く気配無く、私の机の引き出しや備品が野ざらし状態。「野ざらしを心に風のしむ身かな」と旅前の心境を詠んだのは芭蕉翁だが、新年度を野ざらしで迎えるというのは前途を物語るようで何とも...。憂鬱な日々が続く。
(平成29年4月6日/2338回)