大師線

モノの価値は需要と供給により変動すると説いたアダム・スミス。神の見えざる手の比喩は言い得て妙で目から鱗の授業は今も記憶に残る。が、いまや事はそれほど単純ではないらしく、「自由市場は人間の弱みにつけ込む」と副題の付いた「不道徳な見えざる手」(ジョージ・A・アカロフ/ロバート・J・シラー共著)を読んでいて、この行動経済学の領域は多くの示唆を含んでいる。
ピーク時の遮断時間が40分以上が開かずの踏切とされていて、「何でこんなところに踏切が...」って恨み節が聞こえるけどそもそもそこに鉄道があった訳で後世の御都合が多分にあるのだけれどもさりとて手をこまねいている訳にも参らず。その代名詞が京急蒲田駅からの空港線。着手から11年の歳月で高架化が完了、最近は何かとこき下ろされる石原都政だけど目に見える道路整備は随分と進んだのではないか。
そんな厄介な踏切が本市にもあって、1時間あたり20分前後の遮断ながらも交通の要衝となるものだからそれに起因する渋滞は深刻で批判の矛先が向けられる本市。で、検討の結果、既存の鉄道を高架化又は地下化する連続立体交差事業なる手法を活用して打開することとなったものの、あくまでもそちらの都合でやる以上は当然ながら費用負担も...。が、さすがに不憫とのお上の沙汰かおよそ半分は国費が投入される仕組み。
京急川崎駅と小島新田駅を結ぶ全長5キロの京急大師線は川崎大師への参拝客も手伝ってか名物路線で前掲を含む15箇所の踏切を有する。その全長5キロのちょうど中間にあたる鈴木町で2つの区間に分割し、小島新田側から地下化を図るというもので、小島新田駅から東門前駅までのⅠ期①区間の完成が見えてきたことから東門前から鈴木町までのⅠ期②区間に着手するにあたりまちづくり委員会にて状況の報告を受けた。
Ⅰ期①区間で採用している直下工法(既存路線の真下を掘る工法)に対して、仮線工法(既存路線を仮移設した上で進める工法)を採用することにより300億円程度の縮減が図られるものの、Ⅰ期②区間の事業費は800億円が見込まれていて、①区間642億円と合わせれば2.5キロに1,400億円。つい、単純に地下鉄の建設キロ単価と比較してしまうんだけど、既存路線の移設となると工期も事業費も...。
さて、市外からの転入による税収増は誇張されても一向に改善の兆し見えぬ道路への不満。それでも例年多額を投じて用地買収にあたっているんだけど相手の都合もある上に一夜城という訳にも参らず。どことは言わぬが近所の道路などは「法的に」拡幅が示されていながら商店街と線路に挟まれていて手つかずのまま。一方の鉄道側は輸送力増強の為の複々線化が示されるも事業者の判断が下されず。
快速用の車線を上下一本づつ新規に地下化すれば用地買収や補償の費用や手間が生じぬも既存の線路と踏切、つまりは地上面は何ら変わらぬ上に単独でそれだけの投資に見合う便益が見込めるはずもなく。ならばいっそ鉄道は地下、道路は地上と大胆な決断を...と「陰ながら」当局には連続立体交差化を促しているのだけれども京急大師線、南武線の小杉以南が居並ぶ状況とあっては...。
新百合-あざみ野間は進んでおりますゆえ。こちらは移設を伴わぬだけに工期が早いのがせめてもの救いか。
(平成29年7月31日/2367回)