腕白

総理、衆参両議長に大臣が来賓であって、そのすぐ後ろにあてがわれし特別席。そう、全国市議会議長会なる団体の相談役を仰せつかった。と申しても別にその資質が買われた訳でもなく政令市が故の「充職」だとか。期数こそ他に劣らずも齢は断然若輩な訳でやはり長幼の序を弁えてエラぶらずひたすら低姿勢に徹しているのだけれども何と申しても「全国」の「議長」だからね、随行を伴って大物ぶりを誇示される方もおられたりして...。
目上には慇懃すぎるほど馬鹿丁寧な人に限って、ひとたび目下の人に対して急に態度を豹変させたりするもの。教師の宴会に下品なもの多く、職掌が職掌なだけに余計に目立つ、と前掲の一冊に読んだ。未だ読了しとらんのだけど、途中に「性欲」と題した一講義があって、先生がその二文字を黒板に記さば生徒にどよめきが起きたとか。さもありなん、思春期の若人にいかに教えるか。誤解なきよう以降は別な本から。
いつぞやの海外研修、移動途中の待合時に隣の売店で見つけし発禁本、いや、著者のままの表記を借りれば「Hな本」。そりゃ若けりゃ目が行くのは当然(いや、むしろ年配者のほうが...)、そればかりか憚らず購入しちゃった挙句、臆せずに車内で微笑浮かべつつ見ておれば「おい、早く回せ」の督促。初対面の時なんぞはオレはどこどこの議員だと金バッチを威光に偉ぶった口調もひとつのバスという檻の中だと早速に地が出る。「そんな見たくば自ら買え」と内心の吐露とともに磨かれし洞察力。
旺盛なる性欲が否定されるもんでもないが、その豹変ぶりが何ともさもしく。ならばハナから威光など振りかざさぬに限る、いや、遜らずとも高慢な態度のみ慎めばいいだけの話なのだけれども、そのへんはまぁ「議長」いや「センセイ」ですから。人としていかに生きるべきかの根源的な問いへの回答は偉人に限らず隣の人にも学べる訳で。
物腰こそ穏やかなれどその奥深い言動に鋭い眼光はただものならず。かくありたいと敬愛する御仁の自叙伝らしきものがあると人づてに聞いて早速に取り寄せた。自叙伝などといわばおよそ当人の立派な功績が綴られしものなれど、そこはさすが、並ぶ失敗談に目から鱗の教訓多く、何と申しても読者飽きさせぬ逸話の数々は教師顔負け。
現在の御人柄こそ存じているものの、その生い立ちに幼少期の悪童伝説など知る由もなく。当時は医療に衛生面は今ほどになく不本意にも早逝された方も少なくない。当人も物心つく前に実の母親との死別を経験されるのだけれども病床に伏せる母親が最後に遺した一言は「後から来るお母様に孝行を尽くせ」だったと。以降、複雑な家庭環境の中で数奇な運命に翻弄されて辿り着いた境地。
隆と書いて「ゆたか」と読む。書の腕前は万人の知るところなれど冒頭に記されし「腕白も歳をかさねて好々爺」には独特の趣があって、脇に添えられた隆左遊書の意味を把握した。そんな偉人の一代記は議長室の書庫にあって無償貸出中。
(令和元年6月15日/2505回)