事後

割れた硝子の破片に流血。店側に粗相を詫びられつつ呼ばれた救急車にて搬送された病院の待合室。次々と運ばれてくる患者。どう見ても自ら以上に重症と思しき患者に順を待たれては...。譲らずと言われるがままに待つこと数時間、施されし処置はヨードチンキだったとか。この程度の症状では申し訳ない、それが美徳なのだけれども救急車とあらば一般外来とは違う裏門から入れる訳で。コンビニ救急と揶揄されてその適正利用に向けて有料化も視野に...なんて叫ばれたのも今やすっかり。まぁそれだけ改善したんだろうナ。
意識不明の重態に一分一秒を争う、そんな患者ばかりではないはずも横たわる患者を目前に受入先が見つからぬ救命士の苦悩、受入側とて慣れぬ研修医では手に負えぬ、されどそのままに伝えたのでは身も蓋もなく、別な理由に拒んでみたり。ということで賞賛される「断らぬ」姿勢。そりゃ確かに苦しんどる人を助けたいという純粋な善意には違いないはずなのだけれどもそれが採算に見合わずとも同じ判断が下せるか、いや、逆に少なからぬ見返りがあったとすれば...と勝手な憶測。
この前なんぞ「かかりつけ」が叶わず担ぎ込まれた搬送先。当初は個室やむなくも請求額はバカにならぬ、症状の回復後に満床とされた相部屋も他への転院をチラつかせれば突如空きが生じたとか。よもやその一連の過程において患者の品定めというかオイシイ急患のみ抱え込んだりはせぬものと信じつつもどこか拭えぬ疑念。専門知識を持ち合わせぬ患者は弱い立場、命を楯に傍若無人な行為が罷り通るとあらば看過出来ず。その断らぬ姿勢と受入実績が世の耳目を集めるもやはりその場のみならず「事後」に適切な処置が施されて患者に「あぁ良かった」と喜ばれてこそ冥利に尽きぬか。
断らぬと知らば救急士とて何でもかんでもとの思考回路に陥らぬとも限らぬ。上の命令とあらば担当医とて断れぬ訳で「とりあえず」受入れてみたものの、限られた資源に右から左とは申さぬも処置ほどほどに次なる受入先を...と追いつかぬ体制に疲弊する現場。三者三様、それぞれの使命感に複雑な利害が錯綜するはやむなくもその過程において互いに意思疎通が図られ、全体として救急医療分野において患者本位の体制が確立しているか。やはり、そのへんの検証までなされねば本物ではないのではないか、などと一席ぶとうにも議長ゆえ質問の機会与えられぬそうで。
社会的責務と経営面からの利害が相反するのは何も救急に限った話ではなく、へき地医療に医療ツーリズム、高額診療への保険適用と挙げれば枚挙に暇なく、問われる医療人としての矜持。不足する医師と看護師の争奪戦に市井の医療がおざなりにならば本末転倒、転嫁される負担と医療の秩序が問われかねぬ諸課題への対応。
未曾有の震災に避難指示あれど患者を残す訳には参らぬ。英断下せし院長も他界、存続危ぶまれるも後任の人選決まり、再生に向けて新たな一歩を踏み出した病院を訪ねたのは数年前。医療人の善意が報われる社会であって欲しいと。
(令和元年6月20日/2506回)